推しが尊い!

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「どこかからそんな話しが」 俺はもう頭を抱えてしまった。 「いや、風の噂で聞いただけなんだけどっ!? 最近氷里ちゃん、ちょっと色々と落ち着いた様子だしっ?? そもそもそれが本当だったら私のルキウス様コスプレ計画が根本的な見直しが必要なる訳じゃない!? 流石に彼女持ちの人にお願いは出来ないじゃない? でも宮下君以外の素材を探すとなると、」 「あの部長」 「難しいわよね。それなりのイケメン探すとしたら、ホストかな。ホスト通いして素材を見つけるのは効率悪そうだし。あとは一日レンタル彼氏とかを利用するしかないじゃない? それも写真と実物にズレがありそうでリスキーよね」 「行動がアグレッシブです。じゃなくて部長」 「なので、ここは取り敢えず宮下君の写真を取らせて貰って、写真を拡大して家のトルソーに貼り付けて想像でカバーするしかないのかなって。でもそれって氷里ちゃんからしたら迷惑な話よね。いや。宮下君もよね。なんか、イベントとかに誘ってごめんなさい。うん、その、色々と忘れて」 「部長! 別に僕は氷里さんと付き合って」 「よくよく考えたら、部下にコスプレお願いするとかパワハラよね──」 あははと、乾いた笑いをする部長。 そのなんとも言えない部長の表情を見て。 「もう黙って下さい」 と、自分で思ったよりキツイ言い方をしてしまった。慌てて取り繕うが──。 「その、ごめんなさい」 と、部長は笑顔すら消えて更に何も悪くないのに俯いて、俺に謝ってきた。 だから、そうじゃなくて! ちゃんと伝える事が出来ない自分に苛ついた。 言葉より行動の方が早いと思って、俺はきちんと膝の上に置かれた部長の手を取った。 そして指をそっと絡めた。 びくりと、大きく部長の肩が震えた。 「話を聞いて下さい。僕は氷里さんと付き合ってません」 「え」 顔を上げて俺を見つめる部長。 「ちょと酔ってしまったところを介抱して貰っただけです」 「そ、そうなの?」 そうだと頷く俺。 それを見てホッと安心する表情を浮かべる部長。 そんな顔見せられたら──。 俺は少し距離を詰めて。 指先にも力を込めて。 「僕がフリーで安心しましたか? それって僕は勘違いをしてもいいって事ですか?」 「え、えぇ!?」 面白い程に同様する部長。 そう言えばこの手、有愛がキスしていなとか思い出してしまった。 俺はそのまま絡ませた手を指を自分の口元に持っていって有愛より長くその手の甲にキスをした。 「!」 そしてそっと離す。 「冗談で僕はこんな事しません。次の休み、イベント楽しみにしています」 そう言うと、部長は真っ赤になってこくこくと何度も頷いた。 思ったより反応が可愛らしいもので、なんだかもっと追い詰めたくなる気持ちになった。 さらに──と思った瞬間。 部長の会社用のスマホが鳴った。 そして部長は大慌てでスマホを手にした。 「! た、助かったー! いえ、何でもありません。鬼龍院です。はい。今、大丈夫です。ええ。わかりました。すぐ戻ります。いえ、戻りますともっ!」 そんな事を言ってスマホを肩に挟みながら、バタバタと席を立って、資料室を後にしようとした瞬間、俺をちらりと見た。 そして真っ赤な顔で。 「わ、私も楽しみしています! って、いえ。こちらの話しです。失礼しました」 と、資料室を後にした。 そして一人資料室に残された俺は。 ──これはいける気がすると、思った。 そして次会うときはもっと押してみるかと思った。
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