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なんか手の甲にキスをされたー!
なんだあれ、なんだあれ、なんだアレ!
最近の子は手の甲にキスをするのが流行っているの!?
私は自分でも耳まで顔が真っ赤になっていると分かりつつ資料室を後にした。
なんでこんな妙な事に。
私は急な呼び出しの為、自分のデスクに戻るまでなんで、こんな事になったのかと色々考えてしまった。
そもそも少し時間が遡るが、休み前に私がイベントを誘ったのだが、そもそもそれは迷惑なのでは。パワハラだったのではないか。
オタクと一般人の垣根を越えるべきじゃなかったのかと、夜中眠る前に突然はたと、考え込んでしまった。
そもそも宮下君に好きな人は居るのではないのか、とか煩悶しすぎた。
せめてもの罪滅しと思いコーヒーギフトをを贈って自分の中の罪悪感を消し去ろうとしたが、上手く行かなかった。
休み明け、ちゃんと話そうと思って出勤したらそうそうに、宮下君と氷里ちゃんが飲み会で抜け出して付き合い出したとかいう、話を聞いてしまった。
──はぁ。もう私のバカ。
そんな落胆した気持ちにしかならなかった。
お似合いのカップルだと思った。
こんな仕事とコスプレと推しに人生を捧げてきた女よりよっぽど健全な判断だと。
しかも未だ──男性経験ゼロの私などより──。
いや、それは、一旦、置いとこう。
さぁ、本当にどうしようか。
そんな事を考えていたらまさかの、クドグループの御曹司が乗り込んでくる珍事件まで起こった。
最初は芸能人かモデルが乗り込んで来たかと思ったが──シリウスに似てるな、とか思ったら割と冷静になれた。
だけども乗り込んだ理由が宮下君に会いに来たという理由には驚いた。
どうやら二人は旧友らしいが色々と、ただならぬ関係に見えた。
そんな詮索する暇もなく成り行きで手の甲にキスとかされたが。
それはスマートなモノで嫌らしさとかはなく寧ろ、その後の宮下君の行動の方がびっくりしたぐらいだった。
色んなドタバタはあったが食事会を急遽開き、クドグループと我社の提携をあっというまに御曹司──有愛さんはこじつけた。
有愛さんはうちの会社の業務売上の数字、上半期の数字と去年のものを全て把握していた。
そして売上の弱い業績の部分をカバーするから。その変わりに食部門に下ろす輸入品をクドグループ一本にしろと。さらに。
「うち。サーモンいいのあげれるからそれで、何か一緒に目玉商品を作ろ。あ、そこから利益率のなんパーをうちの取り分ね。パーセントは親父に相談してみる。とりま、そんな感じで詫びを込めて。現状俺様が采配出来る領分と約束出来る事がこんな感じかなー」
とか始終ゆるゆるだったが、大変切れ者だと思わせる人物だった。
因みに有愛さんの隣に無理矢理座られされた宮下君は堂々としていた。
こう、人前に立つのが慣れているような雰囲気すらあった。
しかも判らない事があったら絶妙なタイミングで質問をしていたりした。
私は流れで参加したに過ぎず、出席者のメンバーだけで気合い負けしそうな程肝が冷えたと言うのに。
顔だけは何とかいつものように取り繕う事が出来たが──こう、若い宮下君の才能と私との差を見せつけられた様な気がした。
そんな感じで有愛さん襲撃事件は会社的に良い方向で幕を閉じた。
もちろん宮下君にお咎めなんか無かった。
寧ろ株を上げていた。
そして、そんな事があったにも関わらず何時もと同じ態度で、ラインとかで積極的に私と接してくる宮下君。
で、先程のキス(手の甲)!
そして付き合っては無かった。
良かったと思ったし、イベントは楽しみにしてる。それは本当。
けれど、きっと。
宮下君は誰が何処に連れて行こうとも相手に合わせて静かに笑う様なタイプだと思った。
そう、相手に合わせるのがうまいと言うか。
私はそれにまんまと甘んじたというか。
「や、やめて……勘違いしちゃうのは私の方だから……」
もう、間もなく自分のデスクに戻る。
頭を切り替えなくては。
最後の私の中で一番の引っ掛かりを考えてしまう。
それは。
………もし、上手く行って付き合うとか──。
なっても別れたら?
私のほうが年上じゃないか。
私が三十路に突入してから別れるとか、なったら──流石にキツイ。
あんな才能片鱗を見せつけられたら、仕事もいつか抜かれてしまうかもしれない。
最悪、恋も仕事も破れてしまったら?
しかも同じ会社。
どんな顔で会えばいいと言うのか。
そう思うと私は今後、推しと共に生きて行く方が楽だと思った。
「さぁ、麗子。一人でも朽ちて行っても心配ないように、老後の資金を稼ぐのよ!」
よし、と気合一つ入れて頭を切り替えた。
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