推しが尊い!

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そしてあっという間にイベントの日を迎えてしまった。 私は色気もへったくれもない動きやすさのみを追求したパンツスタイル。 髪もいつもの夜会巻き。 我ながら可愛げのない服装だと思った。 そして、待ち合わせ場所の駅に来た宮下君はジーンズにノーカラーシャツとシンプル綺麗なファッションだった。 そして開口一番。 「イベントって音楽フェス的なものかと思っていたら。なるほど。こう言うイベントでしたか」 と、周囲をキョロキョロしながら呟いた。 周囲の人々はゾロゾロとキャリーケースを引いている若い女の子が行き来し、分厚いパンプレットを持ってイベント会場の入場を待つ行列。 どう見てもオタクなイベントだった。 「ちょっと、騙した感はあるけれど、ちゃんとモノ作りの出店もあるし。オンリーワンの一点ものとか、作り手の顔が見れて楽しいのよ?」 色んな作品に触れるはイマジネーションが湧くのは本当だし、何よりクリエイトする楽しさはオタクだろうが、一般人だろうが一緒。 そう言う人達を見たら宮下君が言っていたコミュを改善と言うよりか素直に、色んな物に人に触れたくなるのではと思った。 一応、ちゃんと考えてこのイベントを選んだつもりだ。 あと、コスプレも見れるし。 そんな感じで私はおずおずと宮下君の様子を伺う。 「──ええ、別に嫌いじゃないです。それにしても結構な人の多さですね。しかも女性が多いと言うか、なんと言うか」 とか言いつつ、少し戸惑いを隠せないような雰囲気だった。 取り敢えず、ここで色々と言うよりも実際にイベント会場を見て回り体感して貰うのが一番だと思い、私達も行列に並び会場に入場した。 中はさらに人がごっだ返していたが、皆楽しそうだった。 それに華やかな衣装を来たコスプレと出くわすと宮下君は「凄い」とひとしきり感心しているようだった。 私も若い頃よくこーいうイベント出たなぁとか懐かしい気持ちになった。 そしてハンドメイドブースに入り二人で広い会場を隅々まで見て回った。 アクセサリーやバッグ、レース編みの小物類に革製品や天然石を使った本格的なジュエリー。 宮下君はその中でも刺繍関連のものをじっくり見ていた。 そしてその瞳は楽しそうにキラキラしているように見えたのでほっとした。 一通り見て周り、フードコーナーの一角で少し休憩をした。 机の上にジュースに唐揚げ、ホットドッグ、フランクフルト、フライドポテトなどをツマミながら話をしていた。 そして宮下君は少し興奮したかのように一気に喋り出した。 「いや、凄いですね。皆、個人であれだけの制作する情熱というか。色んなデザインがあって。中にはプロに引けを取らないものあったし」 「ね、作りて手と、購入する側が直接見れるのもいいわよね」 「本当に。リアルな反応ってモチベーションあがりますね。僕も何か作ってみたくなりました」 宮下君はそう言って穏やかに笑った。 そして。 「それに、以前部長に言われた、デザインしたその先の人を思い描くってこと。最近それがようやく分かったというか。今ままで自分を見てくれって言う、自分本意なデザインだったかなって。思いです」 「へぇ。誰か思い描く人が出来たの?」 ──思わず、それは女性? と言ってしまいそうになるところポテトフライを多めにつまんで、口に入れてジュースで流し込んで言葉と一緒に飲み込んだ。 そして宮下君は「そんなところです」と少し気恥ずかしそうに言葉を濁した。 「部長、ところで。あのコスプレしている人達ってあの服は自分で作ったりしているんですか?」 唐揚げをぱくつきながら言う、宮下君の視線の先には今流行りのアニメのコスプレの集団がいた。 「作る人もいるし、購入している人。衣装をオーダーしている人もいるわよ」 「へぇ。……僕、部長お手製ルキウスの衣装出来上がりが楽しみになりました。あ、それと漫画全部読み終わりました。面白かったです。続きとても気になります」 「え、本当に!?」 「でも……ルキウス死ぬんですよね……」 「……それを言わないで……」 そんな感じで、私が思った以上に宮下君の反応は好感触で話は大変弾んだ。 そしてさっくりとこの場でフィッティングも行なった。 やっぱりと言うか、宮下君の身体は手足が長くいいい身体してるなと思った。 有愛さんと並んで引けを取ってなかったし。 何か、昔スポーツでもやっていたのかも知れないと思った。 そしてその後もイベント会場を見回ったり、コスプレを見たりした。 結局、閉場時間いっぱいまでイベントを楽しんだ。会場を後にして時刻を見ると夕方ぐらいで。 夕ご飯はどうしようかな。 誘うとしてもこのまま近くにあるファミレスのお店とかでいいかなと。 ──こう、デート感をあまり出さない方向でと思っていたら。 宮下君がふと。 「麗子部長、明日何か予定はありますか?」 れれれれ、麗子って言った??? いや。うん。気のせいだろう。 私はあまりその事を意識せずに返事をした。 えっと、明日も会社は休みで特に用事もない。 そう答えると。 「そうですか。じゃあ、今日はずっと僕と一緒に過ごしませんか?」 宮下君はさらりとそんな事を言ってきた。
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