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舌が絡んできた。
そう思った瞬間には私の服の中に手が侵入してきて、直接素肌に手の感触が伝わった。
服が水でピッタリと肌に張り付いているので手の感触がよりリアルに感じられて、呼吸もままならない程のキスが苦しくて。
もう、されるがままだった。
器用にブラのホックを片手で外され、下に履いていたワイドパンツも「脱がすから、浴槽の縁に座って」と促され、あっという間にショーツ一枚の姿になってしまった。
慣れ過ぎじゃないか。
そんな言葉が出そうになったがシャワーから絶え間なく放出されるお湯によって室内がどんどん高くなるし、単純に私の身体の敏感なところを──。
唇で舌で、手のひらで、指先で、触られて。
自分の体温も高くなり、内から外から逆上せそうになり──何も考えられなかった。
口からはずっと切羽詰まるような、泣き声みたいな、そんな声しか出なかった。
そんな自分の声が浴槽に響き、こんな声が出るのかと余計に恥ずかしくなった。
まさに息も絶え絶えで、私の中に埋まった指が私の中から出て行った摩擦を感じた時にはいつの間にか私はもう裸になっていた。
氷河君は上半身こそ、裸になっていたがまだジーンズはちゃんと履いておりちょっとずるいと思った。
──は、ぁ。私ばっかり裸になっているとか、恥ずかしい……ずるい。
そんな思いを懐きながら私は今更だけども。
氷河君の首根っこに抱きついて「ベッドに
連れて行って欲しい。シャワーはもう十分浴びたから」と、伝えた。
「ごめ…、ちょっと夢中になっていた」
そう言ってようやくシャワーが止まった。
身体の水滴をさっと拭い、抱き抱えられて今度こそベッドの上でお互い裸になっていた。
私に覆い被さる氷河君の顔をさらりと撫でた。
よくこんな私を好きになってくれてありがとうと、感謝の気持ちを込めて。
ふふと、自然と私の口から笑いが溢れた。
そのまま乾き切ってない濡れた長めの前髪も梳いてその向こう側の瞳を顕にする。
「眼鏡、伊達だったんだね」
「目つき悪いから、隠すためかな」
「そっか。そんな事ないと思うけどな」
そして、ちゃんと聞いてみる。
「で、氷河君の隠し事は何かな?」
そしたら私の動かしていた手を掴んで、指を絡ませて、ぎゅっと握ってきた。
「その、不良だった」
「不良?」
そうだと、頷き絡みつく指先に力が入るのを感じた。
「……引いた? もちろん今はもう、そんな事はしてないし、悪かった部分は反省してる」
そう私に告白する氷河君は至って真面目で、そんな事を言わなければ私はその過去に多分気づかなかっただろう。
しかし、そう言われると行動が大胆だったり、物怖じしない事や、この目の前にある引き締まった身体。
公園での出来事とか。
そして一人称が変わる事とか。
二面性がある事。
きっと会社用が『僕』
素が『俺』になるのだろうと思った。
──きっと有愛さんもその時の友人なんだろうと思った。
そもそも、普段の彼は至って真面目な青年で。
「私は、過去にあった事を何かとやかく言おうとは思わない。氷河君の今を信じるだけ」
「……ありがとう。すげー嬉しい」
視線が絡み合って、ゆっくりと唇が重なる。
密着した身体はとても気持ちよかった。
自分の境目が消えるような少し怖さがあったが、それ以上に心地よい暖かさがあった。
いよいよ身体が繋がり、受け挿れた圧迫感は衝撃的で。苦しくもなんだか切ない気持ちになった。
そして氷河君の体温がどんどん上がって汗ばんで行くのがわかった。
何度目かの波のような揺さぶりの中、私の知らない私の最奥を突かれた。
私は思わず、氷河君のその背中に爪を立てて、肩を強く噛んでしまった。
なのに氷河君はその痛みすら快感と言わんばかりに、目を細めて笑った。
「っ、ふふ。好きなだけ噛んで。もう少しで──イきそ」
その言葉を聞いてから、程なくして氷河君は果てた。
そして私の中から今まで薄皮一枚、接着していた圧倒的に熱い塊が引き抜かれた。
それは何とも奇妙な感覚で私のパーツの一部を持って行かれた感じに似ていた。
私はそんな、未だ、波の中を漂うような余韻の中──。
氷河君は大きな熱いため息を吐いたと思うと。
「足りない」
と一言。
「な」
なんですって。
「もっと。いや、こんな事するの久しぶりだし……もっとしたい」
「わ」
私はもう、限界の向こう側にいますが。
声さえ上手く出せずいたのに。
「大丈夫、次はもっと良くするから。何処が良かった? 俺に教えて」
言うが早いが、私の首筋に顔を埋めて私のどくどくと脈打つ動脈を吸い上げた。
思わず声が出てしまった。
氷河君はそれを私の良いところだと思ったようで、次はそのまま首筋を甘噛みしてきた。
そのゾクゾクするような刺激にもう、色々と諦めてしまった。
私はまたおずおずと背中に手を回して。
この背中に消えないキズ痕が出来たらいいのにと思って、指先に力を込めた──。
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