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暫く煙草は吸って無かったが、こう言う時は何故かどうしようもなく煙草が吸いたいと思って、目が覚めてしまった。
室内はまだ薄っすらと暗かった。
隣で寝ている麗子は、疲れ果てたようでぐっすりと深い眠りの底にいた。
試しにキスをしてもちっとも起きなかった。
ちょっと、やり過ぎたかなと思った。
俺はそっと布団を抜け出してガウンを纏い、冷蔵庫の中のミネラルウォーターを飲んで──。
「あ。服……」
と、思い至った。
そこから麗子の服も含めて浴室内で服を乾燥に掛けて。
しばし、スマホで時間を潰し、麗子の寝顔を見たりして昨日の事を色々と考えていた。
イベントは俺が思っていたモノとは違ったが、大変興味深く楽しかったし、いつか自分が出店しても楽しそうだと思った。
コスプレも俺が知っている作品がいつもあり、それが目の前にいるのは不思議な感じだった。
とにかく、見るものが色々と情報量が多い一日だった。
その中でも、麗子がとても可愛いと思った。
俺に、なんとか楽しんで貰えるようにと、丁寧にあれこれと横で説明してきて、俺の何でもない一言に一喜一憂するように表情をころころと変えて。
ルキウスのコスプレしている人には、俺の腕を掴んで「す、少しだけ見て来ていい?」と、まるで子供みたいにせがんで、そわそわしたりして。
好きなものを目の前にしてキラキラとしている麗子は会社と違った表情で、何だか年上なのに年下みたいで。──やはりいいなと。
好きだなと思った。
シンプルに抱きたい、モノにしたいとも思った。
そこからはちょっと、強引かなと思ったが。
誘ってみた。
俺が嫌なら帰るだろうと思った。
しかし、以外にも俺に付いたきた。
そのあとは、もう。
俺が不良だったとも告白して、それを受け入れてくれた。
麗子の優しく笑う顔は底なしの安心感と充実感を与えたくれた。
それに処女だと言う事だったが、やはり新雪を蹂躙するような征服感は昂る要因の一つになったのは確かで。
それ以上に単純にいい女だと思った。
今までよく処女を守ってこれたと思った。
「……ルキウス様のおかげかな」
思わず小さく笑ってしまった。
そして、服の乾燥が終わり、着替えて静かに部屋を後にした。
今どき館内には煙草の販売機はなく、近くのコンビ二で買って、朝日を見つめならが吸った。
空気は冷たく、日差しは眩しい。
煙が上に上に立ち昇る様子は見ていて飽きなかった。
久しぶりに身体に入れるニコチンは、しばらくすると頭がボーッとしてきて、ちょっとした倦怠感が出てきた。
しかし美味いと思った。
あともう一本と思ったが、部屋に残してきた麗子の寝顔が思い浮かび、一本で思い留まって足早に部屋に戻ると。
麗子が起きていた。
そして俺の顔見るなり。
「……に、逃げられたかと思った……」
ぼふっと力なくベッドに倒れ込んだ。
倒れ込んでも「良かった。私の妄想じゃなかった。ドッキリかと思った。良かった」とブツブツ枕を抱いて呟いていた。
「ごめん、ちょっと煙草吸いに行ってた」
どうやら不安にさせてしまったらしい。
悪かったと思い、そのちょっと寝癖がついた頭を撫でた。
そしたら、びくりと身体を震わせて。
そのまま動きが止まった。
少し怒ったかと思い、顔をのぞき込もうとしたら。
「ちょ、だめ。や、やめて」
「ごめんってば。機嫌直して」
俺は殊更優しく、そのむき出しの肩にふれると。
「っ!」
シーツのお化けよろしく、麗子はシーツを被り、てるてる坊主みたいになって隠れてしまった。
そんなに怒らせてしまったかなと、思った。
「ご、ごめんなさいっ。ちょっと、今、まともに顔を見れないの……ごめんなさい」
「何で?」
「いや、だって。その」
そのままモニャモニャとシーツの中で呟いているようだった。
そして小さな声で。
「あんな事して恥ずかしくて、死にそうで……ごめんなさい。顔がまともに見れない。今後会社でどんな顔して仕事したらいいの……」
そのまま、シーツの下であうあうと、困惑しているようだった。
そんな反応に思わず笑ってしまうと「誰の所為でー! 意地悪ー!」と、枕が飛んできた。
飛んできた枕をなんなく片手で受け止めて、シーツから麗子の突き出した細い手を掴んだ。
そして、そのままシーツ事身体を抱き寄せた。
「大丈夫。いつも通りでいいですよ。部長」
「うっ」
「僕にも仕事とプライベートの分別ぐらいありますから」
「……ふ、二人っきりのときは俺でいいし、敬語も使わなくていい。名前も麗子でいいからね……氷河君。これからもよろしくね」
そこでようやくおずおずと照れながらシーツの中から麗子は出てきた。
やっぱり可愛いと思ってそのまま額にキスをした。
「っ、もう。いろいろずるいっ」
「こちらこそ、よろしく。麗子」
そんな会話をしていたら、部屋がすっかり明るくなっていた。
俺は二人でこんな朝を何度も繰り返して行きたいと思った。
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