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数日後。
俺の中でも色々とちょっとした変化があり、それは私生活にもデザインにも反映した。
未だに遠くの誰かを思い浮かべるのは人数が多くて難しいが、近くの人達を、通りすがりの人達がもし俺の考えた服を着てくれたら。
そんな思いを懐きながらデザインを描いた。
ちょっとは良くなったと思う。
それをコンペに提出した。
会社では眼鏡を掛けるのを辞めた。
いきなり髪までイジるのは、なんか、こう。
夏休み後の高校生デビューみたいな感じがしたので軽く前髪を横に流す程度で留めておいて。
そうしたら女子社員の人達から声を掛けてもらえる回数が多くなった様な気がした。
麗子曰く。
「私の推しが輝いて行くー! ルキウス様のように手の届かない所に行かないでねっ!?」
とか、言われた。
そして。
あっという間にルキウスの衣装を仕上げてきた。
何でもコスプレする方々は、イベント前日まで布だろうがイベント当日には衣装を仕上げる生き物だそうだ。
そのスピードで衣装を仕上げたらしい。
そして、今日休日を利用して麗子の部屋で着ることになった。
少し駅から離れた場所で緑も多く、落ち着いた場所に麗子が住んでいるマンションがあった。
ちょっと俺との格差があるなとか思いつつ、仕事を頑張ろうと思った。
手みやげ片手にオートロックの部屋のボタンを押して、扉を開けて貰い麗子の部屋に向かうと、麗子が廊下で待っていてくれた。
手土産のケーキを見つけると嬉しそうに笑って迎えてくれた。
服も白のニットのワンピースでよく似合っていたが、身体のラインがピッタリと出ていた。
「ケーキありがと。後で一緒に食べましょ。で。さっきから何処見てるのかな?」
「ナイショ」
適当に言葉をはぐらかして、部屋に招き入れて貰った。部屋は白で統一されていて、広く綺麗で整っていた。
麗子は来客用のスリッパを出しながら。
「頑張って片付けたのよ。あ、手前の部屋に許可なく入ったらダメだからね」
「お邪魔します。って、何があるの?」
「んー、ルキウス様の祭壇とか? あと、コスプレ衣装とか、その他諸々?」
………祭壇って普通の家にあるものだろうか。
ニコニコ笑顔でそう言う麗子だったが、深く触れないようにしようと思った。
麗子はケーキを冷蔵庫に入れて、俺にお茶を出して、机の上にやたらとデカいメイク道具一式を武器のようにどんと、置き満面の笑みで。
「さ、始めましょうか──」
「き、着るだけじゃない?」
「メイクは当然です。カラコンもこの為に、度なしカラコン。シュテラワンデー・ウォーキングレッドを用意しました! 氷河君は今や漫画既刊読了済み&テレビアニメ一期を視聴中であり、ルキウス様の衣装が馴染む身体になりましたが、やはり──コスプレするならメイクまで」
そう、ニヤリと笑う麗子。
手には早速メイク道具を持ち出していた。
「因みにウィッグは無しです。氷河君のサラサラの髪の素材の良さを活かそうと思ってます」
「……カラコンの名前がウォーキングデッドみたいで物騒とか思ったけれど、わかった。約束だから好きにしてくれ」
男に二言は無し。
そのまま麗子の頭をポンポンと叩いた。
「……まぁ、そのまんまでも充分カッコイイんだけどね。でも、今日は! 好きにさせて頂きますっ!」
そんな宣言と共に麗子の手によって俺はメイクを施されていった。
──肌がきめ細かい。
──あぁ、私の目に狂いはなかった。
──ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。
と、顔を蒸気させながら、うわ言のように呟きながら、非常に楽しそうだった。
メイクされるのは大変くすぐったかったが。
女の人のは毎日こんなのをやっていると思うと素直に関心した。
そして、ウォーキングデッドみたいな名前のカラコンを装着し、メイク仕上げのスプレーを掛けられ、髪もルキウスセットにきっちり整えられ、最後の仕上げに唇に薄い色のリップカラーまで引かれた。
──いよいよ麗子お手製の衣装に袖を通した。
着替えて姿見の前で自分を見る。
そこには何と言うか。
宝塚に出て来そうな、貴族な衣装の俺が居た。
しかし何より。
「重い! 暑い! 首のところのレースがワシャワシャする! マントがベルベット生地で端の処理にトーションレースがたっぷり! 重っ! しかも全体的に生地がハイミロン! 裏地まで縫い付けてあるし、ビジューやフリルがハンパないっ、ルキウスこんな服着て戦っていたのか!? 漢だなっ!?」
「……………」
「しかし、悔しい事に重いのに、暑いのに、動きやすい。俺の身体にフィットしてる。流石、麗子部長。生地の裁断パーツ凄そう──って、麗子?」
「……………う、」
「う?」
「生まれて来てくれてありがとう──!」
「ルキウス様、失礼致しますっ!」と、言いながらがばりと俺に抱きついてきた。
俺が何か言う前に「私の生涯に一遍の悔い無し。もう、死んでもいいわ」と更に言った。
そのまま恍惚の表情で。
俺を見上げて。
「お、お願い! ちょっと13巻のルキウス様の名台詞を! 私に!」
なんだったけ。
えっーと、確か。
ヒロインに忠誠を誓うやつか。
アレをやれと言うのか。
しかし、瞳をハートマークにしている麗子を無下に出来なくて。
「……わかった。一回だけだから」
こくこくこくこくと、物凄い速さで頷く麗子。
俺は気合を入れて。
麗子から身体を離し、その場に片脚を付いて膝まづいた。
それから麗子の手を取って自分の口元に持って行き──。
「『我が主よ』永遠の忠誠を』──って、普通に恥ずかしいな、これっ!?」
「好きです──!! 死んでも愛してますぅぅ!」
今度は俺の首根っこに熱烈に抱きついてきた。
白い首筋が俺の口元に触れる。
しかし。
これは。
俺はそのまま麗子の腰に手を回して。
「それは誰に言ってんの?」
「え」
「ちょっと妬ける」
そのままポカンと開いた麗子の唇にキスをした。
「う、んっ」
少し唇を貪って。
ゆっくりと唇を離した。
「麗子には俺が居るから、ルキウスはもういいだろ?」
「……だから、その、ずるい」
「このまま、していい?」
「っ! だから、ズルイってば──!! そんなの断れる訳がっ」
「俺の事だけを考えて」
麗子の赤くなった耳に俺はそっと囁いた。
そして麗子は小さく、うんと頷き俺の背中に手を回してくれた──。
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