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「ちょっと、部長!? 何いきなり訳わからない事を言って土下座しているんですかっ!? って、拝みはじめたーっ!?」
ちょっと、立って! まずは立って下さいと宮下君が私の肩を揺さぶる。
「生き神様とはこの事ね……天啓を得たわ……宮下君。お願いがあります」
私はゆらりと立ち上がる。
「な、何ですかっ」
「私の為にコスプレをして下さい──」
「意味が全くわかりません──」
私が生きれる可能性を見出した瞬間脳が回転しだした。
取り敢えず、宮下君に部署にあった販促用のシャツを宮下君にあげて残業を切り上げた。
そして、訝しがる宮下君を宥め、個室のある居酒屋に入って事の経緯を暴露した。
それはもちろん長年隠れコスプレオタクを隠し通してきた私に取ってはリスキーな事だったけれども。
コスプレオタクをカミングアウトした。
「推しが死んで。モチベーションが下がって。仕事に身が入らないのは個人としても、チームとしてもダメだし、なにより次のコンペは社を上げて開催されるものよ。あの石橋も勿論参加するし──絶対勝ちたいじゃない」
だから私のモチベーションを上げる為にルキウス様のコスプレをしてくれてと頼んだ。
「ええ、ずっとその格好をしていろとか言う事ではなく。そうね。あまり迷惑かけるのもダメだから私が凹んだ時に、モチベーションが下がった時にコスプレしてくれたら嬉しい。勿論──タダでとは言わないわ」
私は烏龍茶片手に熱弁していた。
「お金は別にいりません。……それより。石橋さん──部長の長年のライバル石橋さんですよね」
こくりと頷く私。
「で、モチベーション上げるためにルキウスとやらのコスプレをしたら良いんですか」
こくこくと何度も頷く私。
「──まぁ、いいですよ。けれど交換条件があります」
「……なにかしら?」
ゴクリと喉を鳴らす私。
じっと宮下君を見つめる。
片目隠れの眼鏡をしているのでやはり表情を読み切れないが。
何やら意を決したようで私を見つめる宮下君。
そして。
「僕に──デザインとコミュニケーションのアドバイスを下さい」
「え」
視線をそらして少し、うつむきながら言う宮下君。
「いや、その。実は、入社してどうやら僕はコミュニケーションが下手だと思う事が多々あって。これまで社会経験少なく生きてきたもんで。でも、それを変えて行かなくちゃいけなと思っていたところなんです」
宮下君が注文した生ビールをゴクゴクと飲み干して、気合をいれたかのように喋り続ける。
「ふぅ。──部長がカミングアウトしてくれたから、僕もようやくカミングアウト出来ました。これでお互い様。貸し借りはなしです。如何でしょうか」
トンッと、空になったグラスを置いて、そっぽを向く宮下君。
これは彼なりに照れている様子かも知れない。
傍目には不貞腐れるようにしか見えないが。
「ええ! こちらこそ、そう言ってくれてると助かるわ。 デザインとコミュニケーションのアドバイスねっ! 任せて。お互いに良いものを作り出して行きましょう」
自然と笑みが溢れてしまった。
良かった。
コスプレオタク気持ち悪いとか罵られる覚悟はしていたが思いの他受け入れてくれた。
クールな仮面の下は彼なりに悩んでいる事も知れて良かった。
「──そう言う理由があったから部長のデザインって外見からは想像出来ないキュートなデザインが多かったのも頷けます」
「そうなの?」
自分では分からなかった。
ただ、服一枚で違う自分になれるような心がワクワクするような物になるようなデザインを──、それが私のモットーだった。
「ええ、僕。部長のデザイン好きです」
そう言って、宮下君は微笑した。
それは、とても年相応で可愛いらしいものだった。
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