推しが死んでしまった!

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そして、爆速で昨日の仕事の残りと今日のタスクを片付けて、私に余裕が出て来たときには15時を過ぎていた。 コンビニで買ったサンドイッチと蒸しパン。 そしてカフェラテを片手に少し遅めの昼休みを会社の資料室の端っこで──こっそりラインで宮下君を呼び出して、適当なランチを食べていた。 「こんなホコリぽっい所で食事しなくても」 本日も片目隠れの眼鏡のクールな宮下君だった。 「いや、だって。もぐ。いきなり私と宮下君が急に仲良くランチしていたら変に思われるじゃない。それに。もぐもぐ」 それに私のコスプレの話しをオープンにする訳には行かないしと、サンドイッチを咀嚼しながら言ってみた。 それはそうですけれど──僕の時間は大丈夫なので先に食べて下さいと、壁に背を預けてスマホを触りだしたのでお言葉に甘えて、食べるに集中させて貰った。 そして、蒸しパンもぺろりと食べ終えて。 いよいよ本題に入る。 「ご馳走様でした。さてと宮下君」 私が声をかけると宮下君はすっとスマホをポケットに入れて私に向き合う。 「はい。わかってます。ルキウスとやらのコスプレをしたら良いんですよね。いつしま」 「ちっがーう! 違うわ。違うわ。宮下君。まだ、ルキウス様のコスプレにするには早くてよ! そんなに事じゃルキウス様の配下(ファン)にフルボッコよ!」 「何それ、怖いんですけど」 「コスプレは着たら良いと言うものじゃありません。心技体、それらが一つになったときにコスプレと言います」 「……はぁ」 なんだか面倒臭いなーとか、思われてる感じがするがここで引く訳には行かない。 これは大事な事なのだ。 「ほら、スーパーマンのコスプレをしているのに煙草を堂々と吸うとかさ、魔法少女のコスプレをしているのにあぐらをかいて座っていたりする現場を見るとガッカリしない?」 「まあ、そうですね」 「そう! そう言う事! なので宮下君には手始めにヴァンパイア戦記の既刊32巻を昨日のうちに手配したので今日の夜には宮下君のお家に届きます。まずはそれを読んで下さい」 「テロだ」 「愛です」 そう、愛である。 ただ着ただけでいいならマネキンに着せたらいい。本当はルキウス様のマリアちゃんへの繊細な機微や、弟への愛情などアニメ版二期の脚本家、斎藤隆先生並の造詣を学んで頂きたい所だが、そこまで望むのは高望みかと思われた。 なので最低限漫画等を履修して、ルキウス様を知って欲しいと思った。 「……漫画を読んで終わりですか?」 「いえ。そこから劇場版、小説版、舞台版、アニメ版三期まで見て、って、何で頭を抱えるの──!?」 「いえ、思ったより厄介な事に巻き込まれたとか、全然思ってません。だ、大丈夫です。男に二言はありませんから」 中々男らしい台詞には好感が持てた。 「まぁ、いきなり詰め込んでも仕方ないからまずは、原作から始めてみよう。で、宮下君が履修している間に私はデザインのアドバイスとコミュ改善の相談に乗ればいいよね」 「そうですね……」 「取り敢えず、今日はお家に早くて帰って貰って漫画受け取ってね。で、明日から──さっそくデザインのアドバイスから始めましょうか」 今日はこの後打ち合わせがあるから宮下君のデザインを見るのが難しかった。 申し訳ないと付けたした。 「なら、明日。仕事終わりにいいですか?」 「勤務中にちゃんと見るけど──そうね。うん。昨日のスーツのお詫びがまだだし、私がご飯奢るわ。その方がリラックスして話が出来るわよね」 「お詫びは別にいいんですけどね。でも、その方が僕も有り難いです。では、明日。僕、そろそろ戻りますね」 詳細はまた後でラインで決めましょうと。 そう言って資料室を後にした宮下君。 その背中を見送って、はたと気づいた。 「……これってデート? いやいや。違う。違う。ってか、デートなんて響き久々に口にしたわ……」 そんな不埒な事を一瞬でも考えてしまって、宮下君に悪いと思った。 そして、雑念を追い払うように残りのカフェラテを一気に飲み干して私も資料室をあとにした。
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