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私の知らないところで彼女が苦しみ、既に亡くなっていたという事実がかなりショックだった。肩の重みがズシ、と右足にも移った。
知らず知らずのうちに右足を引きずって歩いていた。
差していた紺色の日傘を支えるのが面倒で、畳んで杖代わりに地面を突いて歩いた。
ぼんやりと覚束ない意識の中でおばさんの声がはっきりと響いた。
ーー「もう五年ほどしか生きられないって医者から余命宣告を受けたの」
真帆ちゃんは自分の余命を知っていたのだろうか。
ーー「春香ちゃんの言うことなんて聞かなければ良かったって……泣いていたわ。そうしたら死ぬこともなかったのにって」
おばさんのあの口ぶりを思い出すと、知っていたんじゃないかと思った。
でも。
そうだとしたら、変だ。
妙な違和感を覚えてしまう。
ーー『また十年後、大人になったら会おうよ』
ーー『会いに来てね、絶対だよ?』
引っ越しの間際、そう言ってお守りをくれた彼女は、十年も生きられないことを分かった上であの約束を口にした。
お守りに入れた手紙の文章だってそうだ。
病気のことを知っていて、自分の命を延ばすためにああ書いたのだとしたら……。
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