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あの時止めておけば良かったんだ。誰か大人の人を呼んで来て、拾ってもらえば良かった。
真帆ちゃんは安全確認をした上で道路を渡り、ボールを拾い上げるのだが。そこで自動車に撥ねられた。
救急車で病院に運ばれ、手術の結果命は助かった。しかし右足には後遺症が残った。
それだけでも悲しかったのに、輸血で病気になっていたなんて……。そんなの、知らなかった。
「……ごめんなさい」
気付くと目尻に塩気を帯びた液体がたまっていて、膝を包んだ手の甲に落ちた。
「いいのよ、もう」
「……え」
「過ぎたことだから」
振り返ったおばさんは来た時と同様に、愛想の良い笑みを浮かべていた。その表情を見て、幾らか心が軽くなる。
それから私は、仏壇に手を合わせて彼女の家を退去した。
*
だらりと気怠い残照の中で、ひぐらしが寂しげに鳴いていた。
そろそろ五時になろうとしているが、辺りは昼と変わらず明るく、まだ夕方という気がしない。
重い足を引きずりながら、最寄駅へと向かっていた。真帆ちゃんの家を出てからというもの体が怠く、肩に異様な重さを感じていた。
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