十年前の約束

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 彼女のいじらしさを思い、涙が溢れた。  最寄駅にたどり着き、改札を抜けてからホームに下りる。電車の時刻を電光掲示板で確認し、ひと気の無いホームでぽつねんと並んで待った。  どうして言ってくれなかったんだろう、病気のこと。  言ったら私が気にすると思って黙っていたのだろうか。優しい彼女ならあり得ると思った。  やがてホームにアナウンスが流れた。 《これより三番線を電車が通過します、危険ですので白線の内側に下がってお待ち下さい》  なんとなく手持ち無沙汰な気がして、鞄に仕舞ったままのお守りを取り出した。  手紙を開き、真帆ちゃんの丸文字を目でなぞる。 【2021年の8月、夏休みに会いに来てね。】  会いに来たよ、真帆ちゃん。  あの時はごめんね、きつい言い方をして、ボールを取りに行かせて……。  急に吹いた風で手紙がペランとめくれ上がる。  あれ?  裏面にも文字を見つけた気がして試しに裏返した。 【高橋 春香、享年二十歳、八月】  背中がゾクリと粟立った。  なに……? これ。 「違う……」  自然と呟いていた。  真帆ちゃんのあの約束は、自らの余命を延ばすためなんかじゃない。
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