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そんな、生易しいものじゃない。
心臓の鼓動が速くなる。ひとりでに足が前へ前へと歩き出す。
私は真帆ちゃんが好きだった。
私のお願いをいつも嫌な顔をせずに聞いてくれるあの子が大好きだった。
……じゃあ。あの子は?
唇が震え、寒くもないのに歯がガチガチと音を立てた。
十年後。もう死んでいると分かっていて、彼女は私を呼んだんだ。
肩の重みが一層増して冷えすらも感じた。そこに指の感触が伝わり、突然ドン、と背中を押された。
「………えっ?」
目と鼻の先に急行電車が迫っていた。
耳をつんざくような警笛と轟音に見舞われ、体全体に衝撃を受けた。
宙を舞った私の耳元へ、彼女の優しい声が囁いた。
「やっと会えたね、春香ちゃん」
《了》
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