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確か、私の家が引っ越すことになった時、彼女が餞別という形で作ってくれた物だ。元気でね、また会いに来てね、と泣くのを我慢したようにできた不自然な口角を思い出す。
「事故で大変な思いをしたでしょうに……いつも明るくて。本当にいい子だったわね」
事故……。
母の言葉を受けて心臓の奥がジワリと湿り気を帯びた。
八歳の頃だった。道路に面した公園で、私と真帆ちゃんはボール遊びをしていた。私が投げたボールを取りに行ったせいで、彼女は交通事故に遭った。
記憶の中で笑う真帆ちゃんの足元が朧げに浮かび上がる。軽い足取りで大地を蹴る右足が跛行に変わるのを思い出す。
途端に胃が絞られるような痛みに襲われた。
「……そうだね」
下手くそな笑みを浮かべてからグラスの麦茶を飲み干した。
実家を出てから電車に一時間半ほど揺られ、現在ひとり暮らしをしているマンションへと帰り着く。
デスクに置いたパソコンに向かい、少しずつレポートを仕上げていった。
「ううーんっ」
ちょうど集中力が切れた頃、キーボードに載せた手を休め、両手を上げて伸びをした。
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