十年前の約束

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 確か、私の家が引っ越すことになった時、彼女が餞別(せんべつ)という形で作ってくれた物だ。元気でね、また会いに来てね、と泣くのを我慢したようにできた不自然な口角を思い出す。 「事故で大変な思いをしたでしょうに……いつも明るくて。本当にいい子だったわね」  事故……。  母の言葉を受けて心臓の奥がジワリと湿り気を帯びた。  八歳の頃だった。道路に面した公園で、私と真帆ちゃんはボール遊びをしていた。私が投げたボールを取りに行ったせいで、彼女は交通事故に遭った。  記憶の中で笑う真帆ちゃんの足元が朧げに浮かび上がる。軽い足取りで大地を蹴る右足が跛行(はこう)に変わるのを思い出す。  途端に胃が絞られるような痛みに襲われた。 「……そうだね」  下手くそな笑みを浮かべてからグラスの麦茶を飲み干した。  実家を出てから電車に一時間半ほど揺られ、現在ひとり暮らしをしているマンションへと帰り着く。  デスクに置いたパソコンに向かい、少しずつレポートを仕上げていった。 「ううーんっ」  ちょうど集中力が切れた頃、キーボードに載せた手を休め、両手を上げて伸びをした。
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