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【春香ちゃんへ。
お元気ですか? 手紙に気付いてくれてありがとう。10年後に会おうって約束したの覚えてるかな。2021年の8月、夏休みに会いに来てね。
わたしの家の住所、書いておくね。】
十年後……。約束。
硬く閉じられた宝箱をこじ開ける気持ちで、十歳の私たちが交わした会話を蘇らせた。
『また十年後、大人になったら会おうよ』
『うん!』
『会いに来てね、絶対だよ?』
真帆ちゃんの小さな小指に自分のそれを絡めて、彼女から黄色いお守りを受け取った。幼い私たちは手を振って別れた。
*
八月中旬。無事にレポートを仕上げた達成感もあり、私は午前中に家を出て、子供の頃に住んでいた街を訪れることにした。
あの頃仲良くしていた真帆ちゃんが、まだ同じ家に住んでいるという保証はどこにも無かったが。会えなければそれも仕方ないかという気持ちで、新幹線と電車を乗り継いだ。
最寄駅はずいぶんと様変わりしていて、十年という時の重さを感じた。
記憶を頼りに紺色の日傘を差しながら、既に炎天下で灼かれたアスファルトを踏みしめる。
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