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暇を見つけては二人で散策した田畑や野原には、マンションが建てられ、百円玉を箱に入れれば野菜を持ち帰っても良い無人市場には、スーパーができていた。
車通りの少ない閑静な住宅街を歩くと、当時の遊びであるゴム跳びやだるまさんが転んだの光景が鮮やかに思い起こされた。
程なくして、水谷と書かれた表札の前に立っていた。
築何年の家だろう。不安に眉を寄せて、家の外観を見上げた。
子供の頃、よくこの家のインターホンを鳴らしたはずだが、十年経っているせいかさびれて見えた。
表札の苗字を再三確認し、丸いボタンをグッと押し込んだ。プー……、と微かな音が響き、そのまま待っていると玄関扉が静かに開いた。
「……はい、どちらさま」
あ。
家主である女性を見て、幾らか目を見張った。
女性は確か、真帆ちゃんのお母さんのはずだが、想像以上に老け込んでいる。当時艶を帯びた黒髪はそのほとんどが白髪に変わっていた。
私の母親と同じぐらいの年齢だった気がするのに、母よりひと回りは年上に見えた。
ハッと息を呑んだのは彼女も同様で、私を見つめて唇を震わせた。
「あなた……もしかして。春香ちゃん?」
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