第1話 新しい始まり

2/25
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「知ってる? 最近、戦っている女の子が目撃されてるんだって」 「戦う女の子? なにそれー?」  夕暮れの日差しが眩しい放課後の教室にて、クラスメイトの女子生徒が話す声が聞こえる。その声は最近巷で有名になっている戦う少女の話題であると聞き耳を立てながら考えていた。  放課後の教室には各々事由に過ごすクラスメイト達で溢れていた。  先程のように噂話をする人、部活の準備をする人、友達と放課後に遊ぶ計画をする人などがなか、机に座ってスマートフォンを操作して女子生徒達の噂話を聞いている男子生徒がいた。  それはどのグループにも所属をしていない黒羽出雲である。  出雲はスマートフォンを操作する振りをして、紺色のブレザー型の制服に皺が付かないように机に突っ伏して噂話を聞き続けることにする。 「写真を撮ってSNSに投稿をしても数秒で消されちゃうんだって! 何か秘密でもあるのかな?」 「映画の撮影とかじゃない? それですぐ消されちゃうとか?」 「そうなのかなー? 見た人は記憶が曖昧であまり覚えてないとか言ってたけど……」  聞いたこともない話を耳にすると、どうせ都市伝説とか何かだろうと考えることにした。 (曖昧か……でも目撃ってことは鮮明に覚えている人もいるのかな?)  そんなことを考えながら放課後を静かに過ごしていると、教室から誰もいなくなってしまう。空いている窓から入る夕日と肌を優しく触り、耳にかかるまでの黒髪を揺らすそよ風が心地いい。また、4月であるので花粉が未だに飛んでいるのか、目元が痒い。  目が痒くなってきたな……本当にこの季節は辛い……病院に行こうか悩むけど、とりあえず帰るとするか。 「今日も何もなく終わるんだろうな……家に帰ったら何をしようか……」  通学鞄を持って教室である1年1組を後にする。  1年生の教室から出ると目の前に階段が現れる。階段には多数の部活動のポスターが貼られているが、視界に入れずに階段を下りて校舎から出た。  校庭の横を通りながら右を向くと、部活に勤しむ生徒達が見える。自身は部活動に入っていない。なぜなら放課後の時間を自由に使いたかったからである。 「みんな楽しそうに部活をしているな。俺は放課後は自由に過ごしたいから、部活には入りたくないな」  校庭にはクラスメイトの男子達が楽しそうにサッカーをしているその姿を見ながら学校から出て行く。通学をしている高等学校は、都心の那岐区那岐町にある那岐高等学校である。  生徒総数1500名を誇るマンモス校である那岐高等学校には、様々な生徒達が在籍をしている。出雲はこの高等学校にこの春に入学をし、既に数週間が経過しようとしていた。 「家に帰ってもすることがないけど、何をしようかな」  スマートフォンを操作しながらSNSを見つつ家へと帰るために商店街を通っていく。商店街は夕方ということもあり活気で溢れているようだ。 「そうか、もう夕方だから人が沢山いるんだ。早く帰らないと婆ちゃんが心配をするけど、まだ帰りたくないな……」  活気で溢れている商店街を俯きながら歩き続けると、視線の端に見知った顔の少女が映った。その少女はクラスメイトであり、確か名前は夕凪美桜と言っていたと思い出した。  美桜は夕焼けが映える綺麗な空色のショートカットに、目を奪われる程に綺麗な鳶色の瞳をしている。その容姿も相まってか制服から出ている白い肌がとても美しい。  どのように例えても批判が来るであろうが、一言で表すのなら楽園にいる天使のようで艶麗だと言える。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!