家庭の香り

22/26
前へ
/26ページ
次へ
 本当に突然でしたよ。 家だけが残った風でね。  親はおろか、学校の先生も事情を把握していませんでした。 僕らは一種の恐慌状態に陥ってましたよ。 せめて感謝の一言くらい伝えたかったです。  ……ただ、子供は残酷と言いましょうか。 智哉抜きで夏休みを謳歌(おうか)していると、自然に彼の存在が薄れていったんです。 新学期を迎える頃にはとっくに「そういう友達もいたな」と望郷のように思うくらいでして。  恐らく、母親らが口を酸っぱくして「家庭には家庭の事情がある」と僕らに詮索を避けさせたことが大きな原因でしょう。  まあ、別に智哉に嫌がらせを受けたわけでもないですし──これまた子供の浅はかな考えですけど──どこかで会えるだろうと楽観してもいましたから。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加