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「じゃ…じゃあなぜ…」
顔を背けたことにより、頬に魚の口元が突き刺さり喋りづらい。そして地味に痛い。
サンマのような形の被り物だと思っていたが、大きさ的にはマグロだ。…もしやマグロの頭を切り落し加工して作られたものなのだろうか。
「まぁそう焦るんじゃないよ。せっかく私が話してあげているのだから…。魚男の誕生秘話をね。核心に迫る前に、この話にはまだ続きがあるんだ」
「続き…?」
俺から顔を離した校長は、ナイフを持ったまま両手を後ろで組み俺の周りをペタペタと歩き始めた。
そして、まるで思い出を懐かしむかのような口ぶりで再び語り始める。
「その光景を見た私はすぐにフナを池に戻す作業を始めたよ。斗真くんたちはそんな私を見てゲラゲラと笑い、何かを言っていたけどその時ばかりは無視をしてね。……あぁ!でもこう言っていたなぁ。‟気持ち悪い、魚男め!”って。今思えばあの時からすでに私は魚男と呼ばれていたんだねぇ!」
はははと校長が笑う度に、魚の顔も小刻みに揺れる。
あの時…路地裏で出会った時はレインコートのジッパーが上まで閉められていたため首と顔の境目が分からなかったけれど、今は比較的首もとが露になっているのでその風貌がよく分かる。
当たり前だが、あの魚の顔は紛れもなく被り物だということが今自分の中で証明された。
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