プロポーズの相手

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 いつも余裕めいた姿を見せている遥さんが、こんなに儚くて弱い部分があるなんて、以前の私だったら心底驚いただろうけど。  おじさまと話したあとだからなのか、彼の一面をすんなりと受け入れることができた。とは言っても、その心情までは計り知れない。  ずっと両親に甘えて生きてきた私には、遥さんの孤独を理解することはできないだろうけど。  それでも。 「当たり前だよ。だって私、遥さんの奥さんだもん」 「……いろは」  遥さんはじっと私を見つめたまま、唇をぎゅっと結んで何かを堪えているように見えた。泣きたくなるのを我慢しているような、そんな気がして、私は慌てて話を続けた。 「あのね、私、ほんとに数学がダメなの。先生の教え方、ぜんぜんわかんない。このままじゃ内申がやばいの。とっても優秀な家庭教師が必要なの」  必死に訴えかける私に遥さんは少し驚いた表情をしたあと、わずかに微笑んだ。 「そう? じゃあ、とびっきり素晴らしい家庭教師を準備しておこうか」 「うん。期待してるから」 「授業料は高いけどね」 「お、お金取るの?」 「お金じゃないよ。いろはの全部、俺にちょうだい」  少しだけ、彼にいつもみたいな余裕のある表情が戻った。  なんだか恥ずかしくなってきたけど、それでも、そんなふうに言えるようになって少し安堵した。 「そんなの、いくらでもあげるよ」  もう結婚してるんだから。 「約束だよ」  と遥さんは笑顔で言った。  その意味が私と彼とで少し違っていたのだけど、それに気づくのはもう少しあとだ……♡
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