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「まぁ、要するに。美也さんが町田君に話しかけられてるのを見て焦った透君に、俺が派遣されたってわけ」
佐々木君の言葉で、ようやくあの状況に対する理解ができた。
町田君が私に好意を持っていると勘違いした透さんが、佐々木君を派遣して彼から私を引き剥がしたのか。そんなことをする必要は、なかったと思うんだけどなぁ。
「町田君のことは、誤解だと思いますよ?」
「絶対に誤解じゃない。そしてああいう輩は、たぶんこれからも増える」
透さんはそう言ってから、うっかりな飼い主に足を踏まれたわんこのような恨めしげな表情でこちらを見た。
そんな顔で見られると、いたたまれない気持ちになるんだけどなぁ。でも、言われていることは言いがかりとしか思えない。
「それで、相談なのだけど」
「相談、ですか?」
透さんの言葉に、私は首を傾げた。
「うん。本当はお試し期間が終わってから、贈りたいと思ってたんだけどね。指輪を贈るから着けてほしいなぁって」
「指輪、ですか」
「そうすれば、少しは虫除けになると思うんだ。ほら、右手の薬指に着けていると恋人がいるアピールだとか言うじゃない」
「それは……初耳です」
左手の薬指の指輪は既婚者の印というのは知っていたけれど、右手の薬指の指輪にも意味があるんだなぁ。
指輪を着けるくらいで彼が安心するなら、着けることに異存はない。
「指輪くらい、いいですよ」
私がそう口にすると……透さんの顔にはあからさまなくらいの安堵が浮かんだ。
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