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『おはよーございます! 今日はゆっくりと過ごしてください!』  なら、黙ってろよと言いたくなるけど、せっかくの休みをそんな気持ちでスタートしたくない。口にすると、自分自身がそんな人間になってしまう気がするから。休みの日も、とくに出歩くこともなく、本を読んだり絵を描いたりして過ごす。読むのは昔の世界のこと、描くのは見たことのない星。部屋の隅の両親の写真を見やる。 『私のお母さんが小さいころは、夜の空は美しかったらしいよ』  いつかあったかもしれない世界の話。正直チラッと見たくらいで、そんな病気になるなんて全く信じられないし、なら住宅メーカーの人には頑張ってクリアーな天井の家を作ってほしいとは思うけれど、そうはいかないのだろうか。需要がないのかしら。 ――不思議に思うことがある。赤ん坊はどうするんだろう。私には子どもはいない(もちろん、結婚もしていない)が、道行く赤ん坊は所かまわず泣いている。夜だって通しで寝てはいないだろう。そのたびに手もとのこいつはヴーヴー言うのだろうか。言うとは思えない。臨機応変に判断するんだろう。でも本当にそうか?そこまでこの奇怪な箱に期待できるのか?どこかで線を引くのは難しい以上、こいつは赤ん坊だろうと、文句を言うだろう。  そう思うと枕元のこいつに腹が立って仕方ない。  誰に断りを入れるでもなく。グゥとこぶしを握って我に返る。そもそも私に怒る権利があるのだろうか。他人が嫌だと思うことに私が首突っ込んで怒っていいのか? 怒っていいのは本人だけじゃないか? 勝手に共感のふりして外野から言うのはこいつと変わらなくないか? 本人は赤ちゃん?  なんだか全部ばかばかしくなる休日の朝。 ◇  そんなことを考えたからか、休日のせいだからか、いつものように眠りについたはずなのに、夜中に目が覚めてしまう。動けない。こいつがヴーヴー言うから。普段の私ならそんなことを考えてた。でもなんだか、今は、とことんこいつと喧嘩してやってもいいような気がした。ごめんよ、お隣さん。  起き上がって睨み付ける。ジーッ………………………………  あれ?無音じゃん。 壊れた……?  午前4時。  部屋にこいつと私。  もしかして、こいつ自身も動けない時間がある……?寝てるとか?24時間365日見張られてるのは、嘘なのか?  と思いながらもこんなんで罰せられるのだけは避けたいよな。たまたまかもだし。また寝るために元の姿勢に戻る。そこからずーっと、起きてるか寝てるかわからない時間を過ごしながら、こいつが動き始めるタイミングを探っていた。息をひそめながら30分もした頃だろうか。またヴーンとこっそり動き出した。  私の代わり映えのない日々のリズムが、少し変わってまるで休符が増えたように思える。それからの毎日、私は、なんとなく起きるタイミングをはかるようになる。完璧無欠のシステムと思ってたこいつの穴がなになのか。  1週間くらいかけて調べたところ、大体午前3時からこいつは動かなくなって、夜明け前の午前4時30分くらいに活動を再開することを知る。突き止める。  1時間半の自由を手に入れたんだと、気がついたときは高揚感で、目を閉じても眠れなかった。  だからといって、何も変わらない、やることもない。読みきれてない本を読もうにも眠いし、読めない。でも、私の日々はなんだかハリがでてきた気がする。世の中の当たり前が実は嘘だった、というその事実が私の足取りを加速させた。一番守らなければならないと思っていたことが、嘘だったんなら次に確認したいのは、そう、夜外を歩くこと。星空の下を歩く。  決行は3日後だ。決めてしまう。そこまでは規則正しい睡眠を行うんだ。そんなことを考えながら、横になって手を見つめる。  また新しく不思議に思うことができた。 ――だれが何のためについた嘘なんだろうか。
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