5

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

5

 昼休みに今お願い事とかってありますか?と切り出してみる。「え、訊いてくれるの?」と笑いながら続けた先輩の回答にかなり私は驚く。 「そうねぇ……うちの子が夜、泣いたりしないように……とかかな? 注意されてしまうし」 「え? やっぱり、ラジオ鳴るんですか」  なんてはた迷惑な奴なのだ。 「鳴るよ鳴るよ。すこしボリュームは落としてくれるんだけどね。器用なんだか不器用なんだかわからないわよ」 「子どもは泣くのが仕事じゃないですか」 「そりゃあ、そうなんだろうけど。どういう仕組みなんだろうね」  それなら思わずこれがなくなってしまえばいいじゃないですか、と口をついてしまいそうになる。でも、そんな私の考えは世界を変えやしない。押し黙ってしまう。  不完全で完全なこれをどうにかできない以上、彼女は子どもに変わってもらうことを願うしかないのだ。そんなもやっとした昼休みの時間はそのまま終わる。私以外もやっとなんかせずに。  別に約束をしている訳でもない。その夜はシクミに会いに行くのではなく。家から出たとこで空を見上げていた。  誰でも夜を楽しむことが出来るように、子どもが泣くことを許されるように、星に願いを込めてみる。  少ししてから、流れてから3回は間に合わないのではないか、と漠然と思うようになる。集中が足りてないな。  星が流れてから祈り始めては間に合わない。長いお願いは間に合わない。私は一言に願いを込めて願い続ける。願う3回と星が走るタイミングが合致することを期待しながら。  一人で夜の星を数えていると、なんだか眠たくなってきた。やけに広く感じるようになる。二人分の空の広さを知ってしまったからかもしれない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!