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そんな感じの一人の夜が続いたけれど、手元のこいつが変わることはない。そういえば久しくシクミにも会っていない気がする。
あるとき職場で先輩が口を開く。
「そうそう、最近夜静かなのよ」
「お子さんですか?」
「いや、これが」
「え?」
「灯里さん、叶えてくれたの?」と先輩は嬉しそうに言う。
でも、本当に夜中鳴らなくなったとしたら、なにかしら住んでいる役場から通達が来そうなものだ。不思議なこともあるものだと私は感じる。その夜は、シクミに会いにいつもの箇所に向かう。
けれど、私を待っていたのは、暗闇だけであった。
それから夜向かっても彼と会えないことが2、3回続く。元々彼がどこに住んでいるかも知らなかったし、待ち合わせをしていたわけでもない。そもそも、私の方が何日か行かなかったのだ。
そうして、私はなんて自分がワガママな存在なのかと気付かされる。会って話すこともない、けれど、あなたのおかげで何か世界を変えられたかもしれない。そう、報告したいだけなのだ。少なくとも私の世界は変わったのだから。帰ろうかと立ち上がる。
「何してるの」
背後からの呼び掛けで、心臓が止まる。
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