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 振り返るとシクミがそこにいた。急だったから驚いたものの、当たり前だ。私たち以外いやしない。 「お久しぶりです」 「そうかな?」 いざ顔をあわせるとさっきまで考えていたことは、どこかに離散する。 「急に来なくなってごめんなさい」 「そうかな?」 「え?」 「僕も毎日ここにいるわけではないよ」 「そっか……そうだよね」  少しだけ間を空けてから続ける。 「あのね。私、シクミに感謝したくて」 「何を?」 「星にお願いごとすれば叶うって話教えてくれたでしょ。本当に叶ったかもしれない」 「あーね。あれ叶えといたよ?」 「え?」 「なんてね」彼は大しておもしろくもなさそうにそう口にした。冗談のつもりだろうか。 「なら、それもありがとう」 「うん、意外とね。みんな知らないだけでなんでもできるんだよ」 「なんでも?」 「だって、夜を一人占めできるのも僕たち以外知らないでしょ」 「たしかに。でも、一人占めは二人でするものなの?」 「二人でしたっていいんだよ」  久々の彼との会話があまりにも、むちゃくちゃで笑ってしまいそうになりながら、「そうかもね」と相づちを打つ。 「じゃあね。もう少しだけ静かにさせとくからさ。ちょっとだけ待ってよ」 「え?」  手元の時計を目にする。間もなく時間だ。 「帰らなきゃ……」  途端に手を繋がれる。 「大丈夫、もっと一人占めしたいもの見れるから」 「え……?」 「ほら、この空の色見たことないでしょ」  そう言われてから見上げる。いつもと違う色だ。朝でも昼でもない。似ているようにも思えたけれど、夜になりかける夕焼けの色でもない。  私は初めて目にする。  橙色の太陽がゆっくりと昇ってくる様子を。同時に、だんだん青が白に染まっていく世界を。塗り変わっていく。  自分の中の色んなものが競り上がってくる。その鼓動が、私を強く打った。まだ知らないことが溢れている。  ふと隣の彼を見やると、ちょうど私を見ていた。あぁ、彼の顔も明るいところでは初めて見た。手元のラジオは静かなものだ。 「おはよう」 「え?」 「君は今、目覚めたんだよ。この世界で」 「なんだか……変な感じだね。おはよう」  彼は微笑んでいる。その笑顔がたまらなくまぶしい。この太陽が昇り切ったら、また生活が始まる。いつしか朝になり、見慣れた夕焼けになるのだろう。繰り返していく。  自然と私の顔の緊張がほころぶ。こんな夜と朝を繰り返していく。今はたった二人で。
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