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7
振り返るとシクミがそこにいた。急だったから驚いたものの、当たり前だ。私たち以外いやしない。
「お久しぶりです」
「そうかな?」
いざ顔をあわせるとさっきまで考えていたことは、どこかに離散する。
「急に来なくなってごめんなさい」
「そうかな?」
「え?」
「僕も毎日ここにいるわけではないよ」
「そっか……そうだよね」
少しだけ間を空けてから続ける。
「あのね。私、シクミに感謝したくて」
「何を?」
「星にお願いごとすれば叶うって話教えてくれたでしょ。本当に叶ったかもしれない」
「あーね。あれ叶えといたよ?」
「え?」
「なんてね」彼は大しておもしろくもなさそうにそう口にした。冗談のつもりだろうか。
「なら、それもありがとう」
「うん、意外とね。みんな知らないだけでなんでもできるんだよ」
「なんでも?」
「だって、夜を一人占めできるのも僕たち以外知らないでしょ」
「たしかに。でも、一人占めは二人でするものなの?」
「二人でしたっていいんだよ」
久々の彼との会話があまりにも、むちゃくちゃで笑ってしまいそうになりながら、「そうかもね」と相づちを打つ。
「じゃあね。もう少しだけ静かにさせとくからさ。ちょっとだけ待ってよ」
「え?」
手元の時計を目にする。間もなく時間だ。
「帰らなきゃ……」
途端に手を繋がれる。
「大丈夫、もっと一人占めしたいもの見れるから」
「え……?」
「ほら、この空の色見たことないでしょ」
そう言われてから見上げる。いつもと違う色だ。朝でも昼でもない。似ているようにも思えたけれど、夜になりかける夕焼けの色でもない。
私は初めて目にする。
橙色の太陽がゆっくりと昇ってくる様子を。同時に、だんだん青が白に染まっていく世界を。塗り変わっていく。
自分の中の色んなものが競り上がってくる。その鼓動が、私を強く打った。まだ知らないことが溢れている。
ふと隣の彼を見やると、ちょうど私を見ていた。あぁ、彼の顔も明るいところでは初めて見た。手元のラジオは静かなものだ。
「おはよう」
「え?」
「君は今、目覚めたんだよ。この世界で」
「なんだか……変な感じだね。おはよう」
彼は微笑んでいる。その笑顔がたまらなくまぶしい。この太陽が昇り切ったら、また生活が始まる。いつしか朝になり、見慣れた夕焼けになるのだろう。繰り返していく。
自然と私の顔の緊張がほころぶ。こんな夜と朝を繰り返していく。今はたった二人で。
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