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がらがら、と、どこかで大きな雷が落ちた。
雨はいよいよもって激しく、窓を、屋根を、ベランダを打ち、降り止む気配を一向に見せようとしない。再び雷鳴が鳴る。今度はすぐ近くに落ちたらしく、暗い部屋を閃光が一瞬よぎって、そして、どかーん、という派手な音が私と男を揺らす。
雷光越しに見る、見慣れたはず男の顔は、どこか、狂っていた。だけど、私も、同じ顔をしていたのだろう。それを確かめて、男は、満足そうに頷くと、私の身体を抱き寄せ、耳元でちいさく囁いた。
「いいか、お前は、行かなかった、んじゃない。行けなかった、んだよ」
頭のなかで、いろんな考えがぐるぐる回る。車のキーを取り出さなきゃ。キャッシュカードを探さなきゃ。そうして、一刻も早く美穂の元へ駆けつけないと。
だが、何故か身体が動かない。男の言葉が催眠術でも私に掛けたかのように、呪文の如く、意識の向こう側から囁きかけてくる。
行かなかった、のではない、行けなかった。行けなかった。行けなかった。
私は、美穂のところに、行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
行けなかった。行けなかった。行けなかった。行けなかった。
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