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「お母さん、何ですぐ出てくれないの」
「ごめんなさい。台所でサヤインゲンの筋取っているのに夢中になって、着信、気が付かなかった」
私のその声を聞いて男が、微かに、くっ、くっと嗤う。私は眉を顰めて、声を上げぬよう男にゼスチャーで示して、何もなかった風に美穂との会話を続けた。
「もうー。サヤインゲンと私、どっちが大事なのぅー。おかげでもう雨、降ってきちゃったよ。凄い雨だよ。お母さん、車で迎えにきてよう」
その美穂の甘えたような声が可愛くて、私は思わず、ふふふと笑った。だが、口から出たのは、また全く別の言葉だった。
「お母さん、雨の日の車の運転苦手なのよ。そんな凄い雨の中、車走らせたら、事故っちゃうわ」
「えー。じゃあ、私どうすればいいのー」
「悪いけど、雨が止んだらまた連絡して。それまで近くのファーストフードでも行ってなさい。あとでお小遣い出してあげるから」
「分かったー。じゃあ後でねー」
美穂からの通話が切れた途端。男は私の胸に手を回してくる。
「まったくもって悪い母親だなあ、今日子」
「あなたに言われる筋合いないわよ……あ、もう、そこ、触らないでよ」
「いいじゃないか、また美穂ちゃんが連絡してくるまで、もう一回、な」
そう言って男は私の唇を自分のそれで塞いでくるもんだから、私はなにも抵抗できず、または、せず、再び成されるがままに身体を褥に転がされた。
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