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半狂乱になった私に対し、男は最初こそ動揺の表情を見せたものの、しだいに冷静な顔に戻っていった。それは、不気味なほど、穏やかな顔つきに。だが、その目つきはどこかいつも以上に冷たく、獰猛な獣の色合いをしていることに私は気が付く。
その目のまま、男は自分のスマホで豪雨レーダーのサイトを開き、そしてポツリと呟いた。
「この雨は、19時までには止まないなあ」
「そんなこと言っている場合じゃないわ! 行かないと、美穂が、美穂が」
「そうは言うけど、相当強いゲリラ豪雨だぞ、こりゃあ。今日子、車の運転できるのか?」
「だって……!」
「行けなかった、ことに、すれば良いんじゃないか? ん?」
私は男の言葉の意味が分からなかった。
そんな私を見て、男は私に畳みかけように、またはちいさな子どもに言い含めるかのようにゆっくり、語を継いだ。
「お前は、子どもを迎えに、行けなかったんだよ。この雨のせいで」
そして男は薄い笑みすら浮かべ、私にこう言い放ったのだ。
「そうすれば、俺たち、一緒になれるんじゃないか? お前、いつも零してたろ。“子どもさえ居なければ”って」
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