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そのとき、唐突に玄関のドアが開いた。
「お母さんー!」
美穂が泣きながらずぶ濡れの様相で駆け込んで、私のもとに駆け込んできた。
「……美穂!」
「逃げて来られたの! 怖かったよ! 怖かったよー!」
そう言うや、美穂はわぁぁんと大声で私の膝元で泣き崩れた。
開けっ放しのドアから横殴りの雨が吹き込んでくる。私は、その飛沫を浴びながら、美穂を抱きしめてやることしか出来なかった。なんと言えば良いのか分からなかった。だって、私はこの子を見殺しにしようとしていたのだ、今の今まで。どんな口で何が言えるというのか。
……分からなかった。分からなかった。
やがて、泣き疲れた美穂が、ふと、私の後ろに佇んでいる男の存在に気付いて、不思議そうに尋ねてきた。
「お母さん? この人、誰?」
すると男は言った。美穂に優しく語りかけるように。
「美穂ちゃん、無事で良かったね。おじさんはね、お母さんの職場の人だよ。お母さんに相談されて、いまからおじさんの運転で美穂ちゃんのところに行こうとしていたところなんだ」
「そうなんですか……ありがとうございます」
「いやいや、おじさんが役に立たなくてよかったよ。じゃあ、前田さん、私は帰るから」
男はこともなげに、薄い笑みを浮かべてそう答えると、静かに家を出て行った。
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