1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
嵐のような女性だった。
ある日突然、僕の前に現れて。
それまで僕が築いてきた価値観とかプライドとか、下らない檻のようなものを、根こそぎなぎ倒した。
心が風邪をひきそうなほどびしょ濡れになった僕に、きみは優しく、にっこりと微笑みかけた。
雨上がりの太陽のような、暖かさで。
共に暮らすようになっても、彼女はいつも彼女らしかった。
感情を真っすぐ投げ込んでくるきみは、時に、そうできない僕にぶつかってきた。
想いのままに怒り、なじり、嘆き、迸らせた。
奔流のように迸るきみの感情を、僕はしょっちゅう頭からかぶる羽目になった。
もしくは、息を殺して、収まるときをじっと耐え忍んだ。
じきに晴れ間がのぞくはずだと見込んで。
時には、虹が現れることすらも期待して。
いつだってそうやって、雨上がりの美しい世界がやってくることを、願っていた。
思えばいつだって、きみという存在は、夕立に似ていた。
こちらの都合などお構いなしに、好き放題、一方的に激しく降り注いできて。
こちらの足を止めさせて、じっとやり過ごすか、それともびしょ濡れで立ち向かうのか、選択を迫らせてくる。
否応なく翻弄されて、でも決して、冷たいわけではなくて。
短い刹那に、理不尽なほどのエネルギーを浴びせかかってきては、終わるときは驚くほど呆気なく終わる。
後には、涼やかな、からりと晴れ渡った光景だけが残る。
だから、きっと、きみを追いかけない僕は正しい。
もうすぐ外には、まるで君と重ねた日々のような夕立が、降りかかる。
それはきっとこの街を、激しく濡らすだろう。
でも、一時だけのことだ。
何事もなかったかのように、やがて雨は上がる。
世界は再び、平穏を取り戻す。
明るい夕暮れがやってくる。
そう、それだけのことだ。
最初のコメントを投稿しよう!