通り過ぎる雨の向こうに

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
嵐のような女性だった。 ある日突然、僕の前に現れて。 それまで僕が築いてきた価値観とかプライドとか、下らない檻のようなものを、根こそぎなぎ倒した。 心が風邪をひきそうなほどびしょ濡れになった僕に、きみは優しく、にっこりと微笑みかけた。 雨上がりの太陽のような、暖かさで。 共に暮らすようになっても、彼女はいつも彼女らしかった。 感情を真っすぐ投げ込んでくるきみは、時に、そうできない僕にぶつかってきた。 想いのままに怒り、なじり、嘆き、迸らせた。 奔流のように迸るきみの感情を、僕はしょっちゅう頭からかぶる羽目になった。 もしくは、息を殺して、収まるときをじっと耐え忍んだ。 じきに晴れ間がのぞくはずだと見込んで。 時には、虹が現れることすらも期待して。 いつだってそうやって、雨上がりの美しい世界がやってくることを、願っていた。 思えばいつだって、きみという存在は、夕立に似ていた。 こちらの都合などお構いなしに、好き放題、一方的に激しく降り注いできて。 こちらの足を止めさせて、じっとやり過ごすか、それともびしょ濡れで立ち向かうのか、選択を迫らせてくる。 否応なく翻弄されて、でも決して、冷たいわけではなくて。 短い刹那に、理不尽なほどのエネルギーを浴びせかかってきては、終わるときは驚くほど呆気なく終わる。 後には、涼やかな、からりと晴れ渡った光景だけが残る。 だから、きっと、きみを追いかけない僕は正しい。 もうすぐ外には、まるで君と重ねた日々のような夕立が、降りかかる。 それはきっとこの街を、激しく濡らすだろう。 でも、一時だけのことだ。 何事もなかったかのように、やがて雨は上がる。 世界は再び、平穏を取り戻す。 明るい夕暮れがやってくる。 そう、それだけのことだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!