出会い

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「それは、ボルボックスだよ」 日向に並ぶペットボトルを指さしてせんぱいは言った。 ボルボックスが何かはよくわからないけれど、ペットボトルとよく似たリズムの言葉は、少し面白い。 ボルボックスって何ですか?と質問する前に理科室の窓際に置いてあるペットボトルの中を見る。 そこには、黄緑色がかったペットボトルがいくつか並んでいる。 「そっちはポリプ」 室内の暗い方にあるペットボトルを指さして先輩が言う。ペットボトルを半分に切った変な形の方は水が循環しているように見える。 小さな水槽みたいなものの中にも聞いたことのない何かのためのものなのだろう。 俺はせんぱいの方に振り向いてたずねる。 「ボルボックスとポリプってなんですか?」 俺が聞くとせんぱいは少しだけ驚いた顔をした。 「小学校の時ミドリムシを顕微鏡で観察しなかったのかい?」 せんぱいに言われてその時の様子を思い出す。 ミドリムシ、ミカヅキモ、ミジンコ、なんかそんな妙に音が面白いものを見たような記憶はある。 ボルボックスも音が面白い。 だけど、それが小さな生き物だったという以外の記憶は正直無い。 「ボルボックスは緑藻の一種だよ」 りょくそうという言葉の漢字が頭の中に一瞬浮かばず、二秒ほどたったところでようやく緑の藻かと思いいたる。 「マリモみたいな?」 緑の藻で思い浮かんだのがあのまん丸だった。 ペットボトルであれができるのかはよく分からないけれどなんとなく質問してしまった。 鼻で笑われるかと思ったけれど、眼鏡越しに見えるせんぱいの瞳は優しげだった。 ◆ なんで、こんな風にこの人と会話をしているかというと、状況は十五分程前にさかのぼる。 ノートを理科室に忘れてしまったことに気が付いた俺は仕方がなく放課後理科室に向かった。 理科室の引き戸には【理科部活動中】と雑に書かれた紙が貼られていて、あれ? と思った。 新入生歓迎会での部活紹介では科学部なんて名前の部活は紹介されていなかったからだ。 恐る恐る教室のドアを開け中を覗くけれど、そこには誰もいない。 「なんだよ……」 一瞬緊張してしまったじゃないか。拍子抜けしながら机に置きっぱなしになっていたノートを手に取る。 「もしかして、君入部希望者かい?」 だから、突然後ろから話しかけられて「ひゃっ!?」という間抜けな声を出してしまったのだ。 そこにいたのは黒ぶちの眼鏡をかけて、髪の毛が少しぼさぼさの、いかにも人気の無いインドア系の部活に入ってますって感じの人だった。 「い、いえ……」 別に違うって答えるだけの話なのに、こういう時上手く言葉が出ない。 その人はちらりと理科室を見回すと「ああ、これかい?」と言ってノートを手に持った。 それが、正直いってあまり見た目とあっていない、人と話なれている様子に見えて不思議な気分になる。 「ついでに、少し見ていかないかい?」 だから、という訳でもないけれど、その人の言葉に思わず頷いてしまった。 理科部って何をする部活なのだろう。 実験だろうか。 アルコールランプというやつを学校で実は使ったことが無いので少しだけ見てみたいと思った。 それで最初に見せてもらったものが、なんか放置されてるなって感じのペットボトルと水槽でちょっと拍子抜けした。
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