1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

唯月(いつき)の髪、ホントに綺麗だよね」  櫛で梳かれた薄茶色の髪は、夕方の陽の光を受けてキラキラと光る。明かりのない室内でそれは、余計に煌めく。 「そう?」 「うん。滑らかで艶やかで羨ましい」  友人の愛姫(あき)がうっとりした表情で言うものだから、何だか照れてしまう。  愛姫がこうやって言うのはいつものことなのに。いつまで経っても慣れない自分がいた。  窓の向こうにはピンクの花を咲かせた木が見える。時折風が吹くのだろう。靡いてひらひら、桜の花びらが散っていく。  大学生になって二度目の春。  今日の講義も終わって空き教室の中、椅子に座って愛姫のヘアアレンジを受けていた。  丁寧に梳かれた後、器用に結われる。くるくる髪の毛が巻かれる感覚に、ぱちんとバレッタが止められると、よしと完成の声が聞こえた。 「出来たよ~」  パッと目の前に鏡が用意され、覗き込む。  編み込んだ髪がトップでお団子に纏められ、おしゃれなバレッタで更に華やいでいた。 「わぁ……!」 「どう? 今日はお団子アップにしてみたよ」 「凄い可愛い! 愛姫ちゃんは本当に器用だね」  顔の角度を変えてアレンジを見る。どこから見ても綺麗で、感嘆の息が漏れた。  愛姫は中学校からの友人。それからずっと仲良しで高校も一緒だった。  黒髪のショートが大人かっこよさを際立て、スラリと細い体型は女性なら誰でも羨む。ヘアアレンジをするのが好きで大学のある日はほぼ毎回、私の髪を触って色んな髪型を作る。  そんな私達の様子を傍で見るもうひとりの友人。友芽(ともえ)はずっと黙っていた口を開いた。 「それにしても、毎回違うアレンジをよく思い付くわねぇ」 「思い付いてるんじゃなくて、ネットとか雑誌見て参考にしてるよ」 「ふーん。そんなに好きなら自分でもやればいいのに」  愛姫は櫛やスタイリグ剤を持ち歩いているのに、何故か自分の髪ではしなかった。 「私は唯月の髪だからしたいの」  友芽の率直な疑問に、ふっと微笑んで答える。どこか哀傷を感じたのは一瞬でにこっと笑うと、ぎゅっと私を抱き締めた。 「こんな可愛い子には、ヘアアレンジのしがいもあるってもんでしょ」  絵に表すなら><みたいな顔をして、頭をなでなでと撫でられる。まるで我が子を溺愛する親のような行動に、友芽はあーそうと目を細めて言った。
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