1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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「や、やめて下さい……!」  叫びを上げることは出来なかった。でも必死に逃れようともがく。しかし馬乗りされてましてや男性の力を振り切れるはずもなく、両手を地面に縫い止められてしまった。 「いい匂い。そそる」  男性の目は恍惚に、興奮した表情で見下ろす。今にも涎を垂らしそうにうっとりとして、ごくりと唾を飲み込んだ。  殺される恐怖にパニックになる。足をばたつかせてもどうしようもならなくて、涙が溢れ出てきた。  ゆっくりと赤い口が開かれる。ヴァンパイアの特徴とも言える鋭い歯が、私の顔に近付いてきた。 「助けて!」  ようやく出た助けの叫び。でも周囲に人の気配は感じられない。  やっぱり家にいればよかった。  面倒くさがらずにご飯を作ればよかった。  寄り道何かせず、まっすぐ家に帰っていれば――。  後悔は遅い。  唇と唇がキス寸前に迫る。受け入れられない死に涙を流していると、急に黒い影が目の前を走った。
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