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……何なんだろう。この感じ……?
助けてもらった時にもなった感情。
心臓がドキドキと高鳴りを始め、締め付けられる苦しさに、体が熱くなってくる。気分が高まっていって、男性のこと以外目に入らない。
高揚感は興奮に変わり、ひとつの欲求が湧き出てくる。
――この人と、キスがしたい――
「俺の目を見ないで」
何かをハッと察知した男性は、さっと私の目を覆うように右手を置いた。そうなることで視線が遮られる。
すると私も我に返ったようにハッとなり、さっきまで感じていた高揚感がすっと消えていった。
右手が離れると、男性はそっぽ向く形で口を開く。
「何かお礼をとか考えてるならいいから。俺が君を助けたかっただけ。それより今日のことはすぐに忘れた方がいいよ」
そう言うと今度こそ、足早に去っていってしまった。
ひとり残された私は、ここになって緊張の糸が切れる。周囲の目を気にすることなくその場にへたり込み、引っ込んでいた涙がまた出てきた。
……怖かった。死んじゃうと思った。
夜遅くに女ひとりで出歩いたリスクもあったんだろうけど、まさか出会うとは夢にも思わなかった。
――ヴァンパイアと言う架空の存在に。
金髪の男性のことを思い出し、恐怖が蘇ってくる。早く帰ろうと立ち上がり、涙を手の甲で拭った。
助けてくれた男性のこと。
日本人離れした紫色の瞳。目であって目でないような、本物の宝石がそこに埋め込まれているかのような輝きがあった。
それと見つめる度に湧き出てきた感情。
命の恩人と言えど冷たい態度で、ましてや初対面の人に何故か胸が締め付けられた。
色んな疑問は今は心にしまって、何処かに寄り道することもなく、脇目も振らずにまっすぐ家に向かって走り出した。
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