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◇ ◇
よろよろと立ち上がった金色の髪の男は、顔を手で押さえながらうぅ……と呟いた。
「……もっと……もっと欲しい。足りない……」
指と指の隙間から見える赤い目は、ゆらゆらと揺れている。はぁはぁと息切れを漏らす口は、変わらず血でべっとりと濡れていた。
「女……女……」
また別の獲物でも捜しに行こうとしたのか。ふらふらと歩き出した時、男に近付いてくる複数の足音が聞こえてきた。
「ここにいたか。指名手配No.31」
闇夜の中に凛と透る声。男が顔を上げると正面に、赤い髪の女性が立っていた。
腰まである長い髪に、左目は眼帯をしている。黒色のミニワンピース調の服、黒色の編み上げブーツ、白色の帽子。軍服を纏った女性は男と同じ目線の高さで、にぃと薄く笑った。
「なかなか尻尾を出さずに逃げていたようだが、最近の表立った行動。ついに命の乾きに耐え切れなくなったか?」
「…………女がいる」
質問に答えるものではなく、男は女性を見て嬉しそうに微笑む。興奮したような顔付きになり、不安定だった赤い目に輝きが戻る。
そんな飢えた生き物を見て、女性は鼻でふっと笑った。
「私を食らおうとは、笑わせる。飢えすぎて私達の存在すら分からなくなるとは」
「ミイア様、我々が」
「よい。今回は私に出された指令だからな。それより周囲を見張れ」
「はっ」
ミイアと呼ばれた女性の背後にいた、同じく軍服を着た数人が散る。離れたところでは白い防護服を着た者が、ベンチの上に倒れた女性を遺体収納袋に収容していた。
涎を垂らし、にんまりと口角を上げた男が飛び掛かる。肩に乗せているコートを払えば、ミイアの腰に鞘がぶら下がっていた。手袋を着ける手がそれを引き抜く。すらりと細長い剣が構えられた。
「汚らわしい化け物め。消えろ」
一瞬。
流星のように速い銀色の一線が走る。とその刹那、男の頭が宙に舞い上がっていた。
やがて落ちて、地面をごろごろと転がる。残された体はぐらりぐらり揺れ、電池が切れたようにばたりと膝から倒れた。
剣を鞘に収めたところで、ひとりの男がやって来た。右目が隠れた黒い髪に眼鏡を掛け、同じく軍服を着た男は、落ちたままのミイアのコートを拾い上げた。
「お疲れ様です。周囲の見張りは解き、目撃者並びに公園に近付く者はいませんでした」
「シイチロウか。ご苦労」
「No.31の回収を行います」
「あぁ。それを終えて戻るぞ」
渡されたコートを受け取り、肩に掛ける。翻るコートの背中部分には、大きな狼が描かれていた。
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