81人が本棚に入れています
本棚に追加
――眠れぬまま、朝を迎えてしまった。
あれから家に走り着いた私は、ベッドの上に座り込んでぼんやりとしていた。
お風呂にも入らず、色々と思ったり考えていたりしていたんだろうけど、実際のところ何も覚えていない。自分の気持ちを落ち着かせるのに精一杯で、そうしている内に夜が明けた。
運良く鍵だけはポケットの中に入れていたので、家に入ることが出来た。でも鞄は置き去りにしてしまって、財布やスマホは手元にない。
せっかく買った夕ご飯も食べておらず、ここにきて空腹を思い出したお腹が、ぐぅと音を鳴らした。
「お腹すいた……。お風呂も入らなきゃ。スマホも……」
呟く割に行動に変われない。
まずは何よりも鞄を取りに行かなくちゃ。まだ噴水のところにあるかな? と考えながら、ひとりで行く勇気が出てこない。
昨日の今日でまだ恐怖は残っていたから。
時間になると灯路が迎えにやって来る。事情を話して一緒に――と思ったけど、めちゃくちゃ怒られるだろうなぁと苦笑いを浮かべた。
灯路には余計な心配を掛けさせたくない。
大学を休んで愛姫にも心配させたくない。
大学に行かなきゃ。鞄もひとりで取りに行かなきゃ。
誰にも心配されちゃいけない――。
色んな思考と感情がぐるぐる巡る中、時刻の確認を全くしていなかった。今はもうすっかり朝日が昇っていて、灯路が迎えに来る時間が迫ってきていると言うのに。
最初のコメントを投稿しよう!