1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

14/15
前へ
/1012ページ
次へ
 ――眠れぬまま、朝を迎えてしまった。  あれから家に走り着いた私は、ベッドの上に座り込んでぼんやりとしていた。  お風呂にも入らず、色々と思ったり考えていたりしていたんだろうけど、実際のところ何も覚えていない。自分の気持ちを落ち着かせるのに精一杯で、そうしている内に夜が明けた。  運良く鍵だけはポケットの中に入れていたので、家に入ることが出来た。でも鞄は置き去りにしてしまって、財布やスマホは手元にない。  せっかく買った夕ご飯も食べておらず、ここにきて空腹を思い出したお腹が、ぐぅと音を鳴らした。 「お腹すいた……。お風呂も入らなきゃ。スマホも……」  呟く割に行動に変われない。  まずは何よりも鞄を取りに行かなくちゃ。まだ噴水のところにあるかな? と考えながら、ひとりで行く勇気が出てこない。  昨日の今日でまだ恐怖は残っていたから。  時間になると灯路が迎えにやって来る。事情を話して一緒に――と思ったけど、めちゃくちゃ怒られるだろうなぁと苦笑いを浮かべた。  灯路には余計な心配を掛けさせたくない。  大学を休んで愛姫にも心配させたくない。  大学に行かなきゃ。鞄もひとりで取りに行かなきゃ。  誰にも心配されちゃいけない――。  色んな思考と感情がぐるぐる巡る中、時刻の確認を全くしていなかった。今はもうすっかり朝日が昇っていて、灯路が迎えに来る時間が迫ってきていると言うのに。
/1012ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加