1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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「ピンポーン」  部屋の中を大きく鳴り響くインターホン。その音にびくりと驚き、反射的にリビングに駆け出す。  ここで灯路が来たことが分かり、さぁー……と血の気が引いていくのが分かった。もう一度インターホンが鳴り、慌てて応答する。 「灯路ちゃん、おはよう」 「唯月、おはよう。まだ用意出来てないのか?」  いつもならインターホンに出ることなく、そのまま出て一緒に大学に向かう。なので画面に映る灯路は訝しい表情を見せた。  どうしよう……。何て言えばいいかな……?  灯路に心配を掛けることなく、怪しまれることもない理由。  本当なら迎えに来てくれるまでに、鞄を取りに行ってご飯を食べて、お風呂にも入って準備を整えておくはずだったのに。 「うん。ちょっと寝坊しちゃって。もう少しだけ待ってもらえる?」  咄嗟に出たのはこれだった。でもこれが一番無難な言い訳だと思った。 「寝坊何て珍しいな。分かった」 「ごめんね、急いで用意するから。中に入って」  幸い定期は家に置いてあったし、小銭も少しあるので何かに対応することは出来る。  今日の講義は午前で終わるので、それから鞄を探しに行こうと決めた。  時間は経ってしまうから、公園内にまだある補償は少ない。ヘタをすれば財布やスマホは抜き取られてしまうだろうけど、親切な人が警察に届けてくれることを願った。  マイクを切って玄関の鍵を開ける。すると扉越しに、お前ら何なんだよ? と不快そうな灯路の声が聞こえた。  どうしたんだろう? と扉を開ける。そこには白いロングコートを着た人達がいた。  普段私達が着るラフな物ではなく、見た目にカチっとしたコート。それは警察や軍人が着るような物で、そんなコートを着るふたりの男性が灯路を押さえ込むような形で下がらせている。  日常からかけ離れた、普通に暮らしていれば接触のない集団。  この人達は一体……?  驚きに言葉を失い呆然と立ち尽くしていると、声が掛かった。 「朝早くから邪魔するぞ。直入に訊くがこれはお前の物だな?」  ロングコートを着る人達の先頭――つまり私の正面に立つ眼帯をした女性。にこりと笑うこともなく、ただ淡々と質問する。言って見せてきたのは、犬の絵がプリントされた、紛れもなく公園に忘れてきた私の鞄だった。 「――私の鞄!」  思わず大きな声で答える。  無事にあったんだ……!  喜びと嬉しさに訝しさは消え、女性にお礼を言おうと思った時だった。 「十河(とがわ)唯月。お前を連行する」
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