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私だって本当にいるとは思わない。でもこの映像はそんな常識を覆す程の影響力がある。
信じていなかったものが徐々に心の中に広がっていき、それは恐怖を感じさせた。
「しかもさぁ、この記事を書いたライターも行方不明になっちゃって。1週間後くらいに自殺したらしいんだよ。これに関わった人が次々に亡くなってるもんだから、ヴァンパイアじゃなくて死神なんじゃねーか? 何て話もあって」
喋っていた灯路が何かに気付き、ハッと下を見る。涙目でうー……と睨む私の視線に、慌てて口を開いた。
「ごめん! 唯月は怖い話苦手なのに、ベラベラ話し過ぎた」
「本当だよぉ。夜、お風呂の鏡とか怖いじゃんかー」
「一緒に入ってやろうか?」
「スケベ」
ぽすとお腹に拳を当てると、あははと笑い声が返ってきた。
やがて最寄りの駅に着き、ふたりで降りる。すっかり日は落ち、空は夜の色へと染まりつつあった。
駅から少し歩いて、見えてきた5階建てマンション。茶色いレンガ調の外壁は、最近塗り替えられたばかりで新築感がある。でも本当のところは築20年が経ち、おまけにエレベーターのない古いマンション。
階段を上がって2階に向かう。通路を奥まで進み扉の前に着いて、灯路がじゃあと言った。
「いつもありがとうね」
「唯月が気にすることじゃないよ。俺がしたくてやってることだから。それより戸締りはきちんとしろよ。特に窓の鍵は忘れずに」
「はいはい。灯路ちゃんてお母さんみたいだよね」
「はいは1回でよろしい」
「はーい」
子供みたいに手を上げると、灯路はよしと笑った。
「夜怖くなったら、いつでも電話してきていいからな」
「うん。それは有り難いかも」
「遠慮はしなくていいから。じゃ明日」
ぽんと頭に手を乗せ、帰っていく。そんな後ろ姿を見送りながら、心の中でもありがとうと言った。
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