29話 ー君が嫌いだ。でも羨ましいと思うー

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 ぼふっと濃く白い煙が爆発したように広がり、斑目と岬の姿をたちまちに消す。服を掴んでいた岬の手が離れ、斑目は素早くスタンガンを出した。  電圧の出力をギリギリまで高めた改造品。これでやりきり、逃げる。  ――死ねない。いや、死にたくない。  岬の為に。岬を残して死ねない!  覚悟を決め、辺りの気配に集中する。見えない、何処にいる!? と混乱する声が聞こえ、先手に闇に乗じるのもいいかも知れないと思った時だった。  周囲が見えないのは斑目も同じ――。だが煙の中、目の前に現れたのは中将、ソウマだった。  眉を吊り上げ、ひゅっと銀の刃を振り下ろす。煙が流れて軌道は読めたものの、斑目の体は反応出来なかった。  ズバッ! と肩を斬られる。くっ……! と顔を歪ませ、斬られた箇所を押さえながらその場を離れた。  見えないはずなのに。的確に居場所を捉えてきた。まるで煙など最初から広がっていないのように。  対抗するのではなく、逃げ回って時間を稼ぐ方向に変える。岬が逃げたであろう逆に走ったが、ハッと足を止めた。  漂っていた煙は晴れ始め、うっすらとお互いが認識出来る程の視界。今度行く手を阻んだのはジンで、日本刀を横にして構えた。  攻撃される前にもう一度!  斑目は2投目の煙玉をと、ポケットに手を入れる。が、直後、左腕に鋭い痛みが襲った。  1本の細長いダガーが肘の上に突き刺さっている。投げたのはソウマで、1投で一瞬を奪われた。  その一瞬は斑目の生死を分けるに充分過ぎる程で――ジンはダンと大きく一歩前に出た。 「仕留めろ!」 「ありがとうございます」  手柄に感謝し、ジンが首を撥ねんと大きく薙ぎ払う。悪あがきにとスタンガンを投げると、刃に当たり少しばかりの軌道が変わった。  そのおかげで首は離れずには済んだが、切っ先は斑目の頬を斬る。一難は去ったが、すでに背後にソウマが詰め寄って来ていた。  仕留め切れなかった場合に備え、ソウマは動いていた。斑目が気付き振り向いた時には遅く、手段なく斬られるのを待つだけだった。  ――はずだった。 「ボンッ!」  爆発音と共に目の前が一瞬で白くなる。煙が視界いっぱいに広がって。と、どんと突き押された。倒れはしなかったが、よろっと後ろに下がる。 「逃げてっ!」 「岬……?」  煙から聞こえてきたのは、逃げたはずの岬の声だった。
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