1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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 鞄の中から鍵を出し、開けて中に入る。言われた通りすぐに玄関の鍵を閉めて、ただいまと小さく呟いた。  おかえりの声はない。ひとり暮らしなのだから当前なのだが、ふぅと息を吐いて部屋の電気を付けた。  明るくなった寝室のベッドの上に鞄を置き、自らもぼすっと倒れ込む。スプリングで跳ねた体が落ち着いた時、はぁと息を吐いた。  灯路はこれからまた30分以上電車に乗って、家に帰っていく。わざわざ途中の駅で降りて、私を扉の前までいつも送り届けてくれる。  灯路が母親みたいに過保護になったのは、私のせいだった。あることがきっかけで、ある日を境に、彼はある意味で私から目を離さなくなった。 「もう5年も経つんだね……」  桜が咲く春が終わって、木々の葉っぱが艶々と輝き出す5月。  やってくる。  母親と妹の命日が――。  枕に顔を埋めて、電車の中で見た動画を思い出す。ひとりで今日の夜大丈夫かな? と考えている内に、寝転んでいるせいか睡魔がやってきた。  うとうと目が自然と閉じられていき、数秒後には夢の中へ落ちていった。
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