1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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 ハッと我に返ると、寝てしまっていたことがすぐに分かった。電気は付けていたけど、窓の向こう側は完全に夜の色に染まっていた。 「寝ちゃってた。今何時だろ?」  慌てて壁時計を見れば、時刻は8時35分。 「やっちゃった……」  2時間近く寝てしまっていたことに項垂れる。でもやってしまったものは取り戻すことは出来ず、ゆっくりとベッドから起き上がった。 「夕ご飯……。何か簡単に作れそうなものあるかな」  キッチンに向かって冷蔵庫を開ける。材料はそれなりに揃ってはいたけど、どうにも作る気分になれなかった。 「今日くらい……」  買いに行こうとして、はたと足が止まる。動画のことが引っ掛かり、しかも夜と言うことが外に行くのを躊躇わせる。  やっぱり作ろうかと思うものの、一度楽しようと思った考えが、手の掛かる苦労に変わることはなかった。  寝室に戻って小さな鞄の中に、財布を入れ替えスマホを入れる。家の鍵を持ってコンビニに行くことにした。  春先と言うこともあって、夜の外はまだひんやりと肌寒い。時々風が吹くと寒さを強く感じた。  怖さと寒さから逃れる為、足早にコンビニに向う。割と近所にあるコンビニは5分程で着いた。  お弁当は食べたいものがなかったので、売れ残っていたおにぎりふたつに、コロッケとひじきのサラダを買った。そしてつい新発売の文字に誘惑された桜プリンを手に、コンビニを出た私は怖さなどすっかり忘れていた。  たまにはこんな夕ご飯があっていいし、何よりプリンが楽しみで気分がウキウキした。そのせいか早く帰ればいいものの、足は勝手に遠回りする。  桜がたくさん咲く公園が近くにあった。その中を散歩して、夜桜を見て帰ろうと思った。  ――こんな時間にしかも女ひとりで出歩く何て、灯路が知れば全力で阻止しただろう。そうなったなら、この先会うことはなかった。  運命を変える、宝石のように輝く深い深い紫色の瞳を持つ男性と。
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