1話 ー真紅の瞳と紫の瞳ー

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 ブランコや滑り台と言った遊具があるだけでなく、池や遊歩道もある大きな公園。朝や昼間は遊ぶ子供達はもちろん、散歩やジョギングする人も多く見掛ける。明るい内は賑わう公園も、夜になれば当然ひっそりとしていた。  きっと桜の季節でなければ来ようとは思わなかったと思う。街灯の光で浮かび上がるたくさんの桜の綺麗さが、怖さを吹き飛ばした。 「わぁ……」  つい感動の言葉が漏れる。両脇満開の桜はまるで出迎えてくれているよう。  少し歩くスピードを遅くして、上を見ながら歩く。時間を忘れ敷地内の中央当たり、噴水がある所までやって来た。  風が吹き始める。はらはら散る桜が侘しくもあり風情があって、美しさに見とれてしまう。夜だから吹き上がっていない噴水の縁に腰を下ろし、しばらくピンク色の雨を眺めていた。 「ドタン」  何か重い物が落ちた音。突然背後から聞こえた音に、びくりと驚く。  噴水の後ろ側はベンチやトイレがあって、まさかの人の気配に急いで立ち上がった。  消えていた恐怖が戻ってくる。充分夜桜も楽しんだことだし帰ろうと、後ろを振り返らずに去ろうとした時だった。 「足りない……」  すぐ近くから声がして、驚きにそちらを向く。  いつの間にか真横に男性がいて、噴水の縁に立ち私を見下ろしていた。  ――目が隠れる程の長い金色の髪。  夜の暗さの中でも際立つ深紅の瞳。  赤く濡れ染まる口元。  男性の特徴に見覚えがあって、どこかで見た記憶があって。一瞬でその答えが導き出された私は、ハッと体を強ばらせた。 「あっ…………」  それ以上は言葉にならない。男性から目を離すことが出来ず、そればかりか手足がガクガクと震え始める。  ――色んなものが混在する地球に、この名前を一度は聞いたことがあるだろう。  ヴァンパイア、と。  もし、本当に存在しているとしたら――  灯路に見せてもらった動画。そこに映っていた男性が、目の前にいる。一緒に映っていた女性は変わり果てた姿になっていた。  殺される。  血を吸われて――。 「甘い匂い……。女がいる……」  男性は感情のない視線を向けながら、ぶつぶつと呟く。  逃げなきゃいけないことは分かっているのに、足が動かない。逃げ損ねていれば、赤い唇がにぃと吊り上がった。 「お前の命も俺に寄越せっ!」  そう言うと男性は飛び掛かってきて、抵抗することもなく地面に押し倒された。
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