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ブランコや滑り台と言った遊具があるだけでなく、池や遊歩道もある大きな公園。朝や昼間は遊ぶ子供達はもちろん、散歩やジョギングする人も多く見掛ける。明るい内は賑わう公園も、夜になれば当然ひっそりとしていた。
きっと桜の季節でなければ来ようとは思わなかったと思う。街灯の光で浮かび上がるたくさんの桜の綺麗さが、怖さを吹き飛ばした。
「わぁ……」
つい感動の言葉が漏れる。両脇満開の桜はまるで出迎えてくれているよう。
少し歩くスピードを遅くして、上を見ながら歩く。時間を忘れ敷地内の中央当たり、噴水がある所までやって来た。
風が吹き始める。はらはら散る桜が侘しくもあり風情があって、美しさに見とれてしまう。夜だから吹き上がっていない噴水の縁に腰を下ろし、しばらくピンク色の雨を眺めていた。
「ドタン」
何か重い物が落ちた音。突然背後から聞こえた音に、びくりと驚く。
噴水の後ろ側はベンチやトイレがあって、まさかの人の気配に急いで立ち上がった。
消えていた恐怖が戻ってくる。充分夜桜も楽しんだことだし帰ろうと、後ろを振り返らずに去ろうとした時だった。
「足りない……」
すぐ近くから声がして、驚きにそちらを向く。
いつの間にか真横に男性がいて、噴水の縁に立ち私を見下ろしていた。
――目が隠れる程の長い金色の髪。
夜の暗さの中でも際立つ深紅の瞳。
赤く濡れ染まる口元。
男性の特徴に見覚えがあって、どこかで見た記憶があって。一瞬でその答えが導き出された私は、ハッと体を強ばらせた。
「あっ…………」
それ以上は言葉にならない。男性から目を離すことが出来ず、そればかりか手足がガクガクと震え始める。
――色んなものが混在する地球に、この名前を一度は聞いたことがあるだろう。
ヴァンパイア、と。
もし、本当に存在しているとしたら――
灯路に見せてもらった動画。そこに映っていた男性が、目の前にいる。一緒に映っていた女性は変わり果てた姿になっていた。
殺される。
血を吸われて――。
「甘い匂い……。女がいる……」
男性は感情のない視線を向けながら、ぶつぶつと呟く。
逃げなきゃいけないことは分かっているのに、足が動かない。逃げ損ねていれば、赤い唇がにぃと吊り上がった。
「お前の命も俺に寄越せっ!」
そう言うと男性は飛び掛かってきて、抵抗することもなく地面に押し倒された。
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