36話 ー掴みたいのは勝利ではないー

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◇ ◇  ――30分。  それは短いようで長い時間だった。 『――30分後に動くぞ』  そう和が言ってから30分。各々は再戦に向けて、それぞれに整えていた。  いつも通り煙草を吸う者。床に寝転び、イヤホンで音楽を聴く者。これからのことを思えば緊張感のない日常を過ごす者もいれば、自分の精度を上げる為、最後の追い込みを掛ける者。ただ自分の愛刀をじっと見つめる者と、緊張感漂う者もいた。  そんな中で和は龍臣と通話を続けた。いつまでも謝り続けていた彼を説得して、その場で残るよう言った。 『――一瞬でも唯月ちゃんのスマホが動くかも知れない。それを見逃さないように、ずっと張ってます』  その時はすぐに連絡しますと言って、龍臣との電話は終わった。スマホの時刻を見てからポケットの中に入れ、ふと和の視界の中に夜春が映った。  皆から離れた場所でひとり、2段脚立の上に座っている。目を伏せる夜春の顔は無表情で、緊張しているのか焦っているのかも分からなかった。  そんな彼に近付く。 「夜春」  前に立ち名前を呼べば、ハッとスイッチが入ったように顔が上げられた。 「……和さん」 「大丈夫。唯月は無事だよ」  何処に連れ去られたかは分からないが、無事であることは何となく分かった。CRH本部なら尚のこと、例えギボシの元にいたとしても手は出されていない、と。  どちらにせよ唯月は “良い撒き餌” なのだから。 「はい……」  夜春も分かっているのかも知れない。けれどそれを冷静に受け止める心中ではなかった。  大切な彼女が、愛する彼女がまた怖い目に遭っている。夜春の心中が穏やかではないことは余りある程に察せた。だからこそこれ以上は何も言わず、ぽんと肩に手を乗せた。  それで和の気持ちが伝わったのだろう。 「ありがとうございます」  夜春が言った言葉を聞いて、和はその場を離れた。  ――30分。  それは長いようで短い時間だった。  時間になり、全員が言葉なく和の元に集まる。精悍な表情で、鋭い空気を纏っていた。  ゆらゆらと紫煙が上がる。鴇矢が最後の煙草を吸い、捨てて踏んで火を消す。それを合図に、和が口を開いた時だった。  突然の着信音が鳴る。和がスマホを出し確認すると、相手は龍臣だった。 「もしもし?」 『唯月ちゃんの居場所が分かりました!』
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