36話 ー掴みたいのは勝利ではないー

4/26
前へ
/992ページ
次へ
◇ ◇  横になったまま色んなことを考えていた時。突然コンコンコンと、扉をノックする音が聞こえた。 「キドです。十河さん、まだ起きていますか?」 「はい。起きています」  来訪者がキドだと分かり、ゆっくりと体を起こす。からりと扉が開き、キドが姿を現した。 「お疲れのところ、遅くにすみません」 「いえいえ。色々あって眠れそうにもなかったので」  あははと苦笑いを浮かべる。 「体調の方はどうですか? 無理せず横になったままで大丈夫ですよ」  その言葉に甘え、横にならせてもらう。キドは近くまでやって来て、ここに来た理由を話し始めた。 「イオジャク局長と話をして来ました」  それを聞いてドキッとする。 「あなたがここにいるのは本意ではないこと。ひとまず今夜はここで過ごして下さいと仰ってました」 「私は明日、帰れますか?」 「はい。そのように仰ってました。それと起きているようなら、少しだけ伺いたいとも」 「イオジャクさんがですか?」 「はい。もちろん体調が悪いようなら、朝に出直すと」  何だろう? と思う。少しだけではあるが、さっき話をしたばかりだったから。 「今で大丈夫ですよ」 「分かりました。では局長にそのように伝えさせて頂きます。私はこれで失礼しますが、何かありましたらナースコールを鳴らして下さい。私もユキモリも待機しておりますので」 「ありがとうございます」  キドは持って来ていた水のペットボトルを置いて、失礼しますと言った出て行った。  ひとりになってどうしたんだろう? と考える。  イオジャクさんの話って何だろう?  引き渡しの話かな?  きっと急ぎの用なんだろうと思っていると、しばらくしてまたノックの音が鳴る。 「はい」 「イオジャクです」 「どうぞ。大丈夫ですよ」  その言葉が許可となり、イオジャクが扉を開けて中に入って来た。 「体調の方はどうかな? 夜間の来訪申し訳ない」 「いえ。すぐに寝れると言った感じではなかったので。体調は変わらずですが、今は落ち着いています」  ありがとうございますとお礼を言う。それならよかったとイオジャクは微笑み、近くまでやって来た。 「明日の引き渡しの件なんだが、早急な決断が必要になってね。無礼は承知で伺いに来たんだ」
/992ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加