36話 ー掴みたいのは勝利ではないー

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 セイシュウがCRH隊員だと言うのは、妻も娘も知らない。カルディアイーターなる存在は秘密裏にされていて、ふたりには刑事だと伝えてあった。  セイシュウはこれまでに、カルディアイーターによる被害に遭ったことはない。ではどうして隊員になったのか? と問われれば、当時の局長による引き抜きであった。  CRH隊員の改革を。抜きん出た逸材を集め、跋扈(ばっこ)するカルディアイーターの討伐を。  その改革化の元、抜刀術で名を馳せていたセイシュウに白羽の矢が立った。  危険な職ではあったが確実に手に職を付けるものであったし、生きている間はもちろん、殉職した後の支払いも破格だった。  若くして妻がいたセイシュウはふたつ返事で了承。師範代を降りてCRHの隊員となった。  元々秀でた能力を持っていたこともあり、セイシュウが功績を上げていくのは早いものだった。同期でもひとりずば抜け、1級隊員になるのも時間は掛からなかった。  その頃下の代でひとり突出した存在がいた。それがイオジャクであり、彼が1級隊員に上がって来てからは、カルディアイーターの討伐数と成功率が格段に上がった。  CRHの中だけではなく、私生活も充実していた。娘が生まれ、それはそれは目に入れても痛くない程に可愛がった。  妻のことは変わらず愛していたし、留守がちになることを申し訳なくも感謝していた。娘にも普段寂しい思いをさせていたが、その分休みの日はもういいと言われるまで付き合った。  順風満帆。仕事も私生活も順調そのもの。  そう。その日が来るまでは――。  セイシュウとイオジャク。ふたり揃って討伐の任務に就くことも多かった。実績と功績を積み重ねていく中、セイシュウはあるカルディアイーターの討伐に向かう。  ナンバー付けもされていない、ノーナンバーの討伐。  セイシュウからすればそれは、簡単な狩りだった。
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