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優しそうな男だった。CRHに歯向かうことはせず、逃げ隠れていた。けれど運悪く情報が、存在がばれ、討伐対象となった。
彼は呆気なく終わった。セイシュウを前に醜く逃げ惑い、涙を浮かべながら粛清された。
言葉悪く言えば手応えはなかった。でもそれはいつものことで。ノーナンバーの討伐は成功し、これで終わる――はずだった。
彼は優しそうではなく、実際にとても優しい人だった。カルディアイーターだからこそ、積極的に他のカルディアイーターに手を差し伸べ、細々と支え合って生き抜いてきた。だからこそ彼の人望は厚く、慕う者は多かった。
結果。セイシュウは多くのカルディアイーターの恨みを買うことになる。
1週間本部での勤務。家を留守にしている日。
その事件は起こった。
「――は?」
当時の局長室に呼ばれたセイシュウは一言、意味が分からないと声を出した。
正面にいる局長は沈痛な面持ちで、もう一度同じことを伝える。
「イチイ中将。君の家が狙われた。就寝中であった奥さんと娘さんは……。遺体で発見された」
それは警察に届いた一報だった。大きな物音を不審に思った近所の人が通報。駆け付けた警察官がふたりの変わり果てた姿を見付け、状況からCRHに報せを送る。内容から近くを巡回中の隊を向かわせると、事件はカルディアイーターによるものだと確信付けられた。
局長から知らされたセイシュウは、しばらくそこに突っ立っていた。僅かに大きく開いた目は瞬きを忘れ、言葉なく放心する。
やがてスイッチが入ったように。我に返ったセイシュウは、局長室を飛んで出ていった。
向かう先は自宅。車で向かえば早いものの、そこまで冷静な判断が出来なかった。
駆けた。走って辿り着いた我が家は、いつもの穏やかな風景ではなくなっていた。キープアウトのテープが張られ、ランプを回すパトカーが止まっている。
夜中にも関わらず数人の野次馬が遠巻きにいて、セイシュウはキープアウトのテープをくぐった。
「部外者は出て!」
「どけっ!」
制止してきた警察を強く押し退け、玄関に上がる。ここでセイシュウの姿に気付いた隊員が、警察に部外者ではないことを伝えた。
靴を脱ぐことも忘れ、土足で家の中に入る。1階は綺麗なものだった。妻の清潔さが行き届いていて、事件が起きているとは思えなかった。
だが2階に上がる階段下には隊員がいて、セイシュウを見て頭を下げた。
「……お疲れ様です。どうぞお2階に……」
この隊員も状況をよく知っているのだろう。バツ悪そうに、目を合わせられずに言った。
セイシュウは何も言わず階段を上がる。上がった先は何とも凄惨な光景が広がっていた。
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