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Ⅱ. 川島
「川島さん、防護服、脱いだんですか?」
黄色い放射線防護服を着て運転するラジェッシュに聞かれた。彼は現地のジャーナリストである。
「ああ、自分だけ、守られてたら、腹を割って話してくれないと思ってね」
川島たちは、ジャドゥタゴを後にし、コルカタに向かっていた。
「そうだったんですね。良いネタ、取れましたか?」
「ああ、たぶん大丈夫。色々と考えさせられたけどね」
道路灯も無く、舗装もされていない道が延々と続いた。揺れる車窓からは、月明かりに照らされた原風景が広がっている。
川島は、取材として訪れた村での、刺激的な二日間を思い返していた。
ジャドゥタゴの近くには、いくつものウランの鉱山があった。放射性物質であるウランは核兵器の原料にもなれば、原子力発電の燃料にもなる。
核保有国であるインドでは、原子力省が委託した公社がウランの鉱石を採掘している。採られたウランが、核兵器に使われているのか、原発に使われているのかは分かっていない。
公社は、ふもとのため池に、鉱石からウランを取り出した後の鉱滓を捨てていた。捨て場所が手狭になってきたのか、池の拡張工事も同時に進んでいる。
川島が夢中でシャッターを切っていると、少女に見られていることに気付いた。
「キミたちの味方になりたいんだ」
快く取材に応じてもらうための常套句だったが、純粋無垢な少女には響いたらしい。ブシュカは、本当に期待を寄せてくれているように表情を輝かせた。
村では、心を開かないアールシュに、腰につけた線量計のスイッチを押される。
川島は、思わず力強く彼の手をはらってしまった。関節から先の指が無いのがいたわしい。
放射線量が規定量を超えたことを指す警告音。川島は、これが何なのか質問されては不味いと、慌てて線量計の電源を切った。
ブシュカの家に泊めてもらえることになったが、その時に見た数値が気になり、コンクリートで囲まれた部屋をお願いした。少しは放射線を遮蔽してくれる。
また、ブシュカは手料理を振舞ってくれるとも言ってくれたが、それも断った。心苦しいが、放射能があるのではないかと、ゲスな勘ぐりをしてしまったのだ。
次の日、鉱山を見学したく公社の運転手に申し入れるも、拒否されたため、ラジェッシュに連絡を取り、二人で、鉱山に向かった。
ウラン鉱山では、放射線防護服を与えられることも無く、皆、村から出た時のままの服装で作業している。ヘルメットだけが支給されているらしかった。
線量計で測ると、針が振り切る。
こんな環境で作業させている公社、それを知っているはずのインド政府が、憎らしく、許せなくなってきた。
ブシュカやルドラの味方になりたいと、心から思えるようになった。
「川島さん、もうすぐコルカタに着きますよ。公社に乗り込むのは、明日でいいですよね」
ラジェッシュの声で、川島は、我に返った。
地平線の向こうにあるコルカタの街の光が、夜空を照らしている。
『宮殿都市』という愛称で呼ばれるコルカタは、ジャドゥタゴとは対照的に、賑やかな大都市である。人口密度では、首都デリーやムンバイを凌ぐとも言われている。
「ああ。明日が決戦だな」
そうは言いながらも、川島には自信が無かった。
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