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ところで俺の『彼女』はと言うと、大体一コマ目の日は遅刻してやって来た。
美人て損だなと思うところに、直ぐに顔と名前を覚えられてしまうところがある。
出席さえ取っていたらいい授業は代わりに名前を書いておくので来なくていいと言ってあるのに、彼は律儀なのか嘘がつけないのか、授業の途中でも何食わぬ顔で講義室に入ってくる。
只でさえ遅刻は目立つのだから。堂々と入ってくるならせめても誰の記憶にも残らないようなモブ顔だったら良かったのでは?ーーーいや、秋夜の顔を拝めなくなるのは、俺も嫌かな…?
「明日からさ、おはようコールしてやるから。出ろよ?」
見兼ねた俺が声をかけると、秋夜は唐揚げを頬張りながらこくんと首を縦に振る。「でも、悪いよ」とか「ありがとう」とかはない。関わるようになって徐々に分かってきた事だが、彼はどうやら人付き合いが苦手だ。それにびっくりする程不器用で、何も出来ない。朝晩とカップ麺で生活しているらしい。色々と心配だ。
唐揚げの付け合わせのサラダのマヨネーズが右の頬に付いていて、拭ってやる。それには流石に、「ありがと」と言われてちょっと心に来るものがあった。
世話を焼くようになってから、満たされる心がある事を自覚した。
(……俺はきっと、誰かの『誰か』になりたかったんだな…)
自慢出来る程美人な『秋夜』。世話を焼く自分。頼ってくれる仲間。俺の居場所。…きっと、ずっとそんなモノに飢えていた。
大学生活は、本当に楽しかった。
講義後に一緒に晩飯を食べて、その足で誰かのアパートに遊びに行って、遅くまで漫画を読んだりゲームしたりして過ごす。時には、そのまま床で雑魚寝をして、朝を向かえてそのまま一コマ目に参加したりした。自由。そう、これが、自由か。
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