1.主人公になれない男

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「なんか様子変だったけど、どうかした?」 「ん?」 「昼の時」  懲りずに訪ねた就活サポート課で、叶ちゃんは先回りするようにピーチティーを用意して待っていてくれた。何それ、嬉しくなっちゃうじゃん…。来るってわかってたの? 「…もう淹れてくんないって言ってたのに」 「今日は特別」 「……ふーん?」  嬉しい。  誤魔化すようにして一口飲んだピーチティーの程好い甘味が、心の凝りを溶かしていくようだった。 「ほら。今も。なんか、元気無い?」 「………そんなこと、無いし」 「嘘じゃん」  心配してくれてるけど、眉毛を下げるんじゃなくて、気安くケラケラ笑う。それが心地いい。『嘘じゃん』なんて言い方も、俺仕様だなと思う。普段なら、『嘘でしょ』って言ったろうから。そういうとこ、くすぐったい。 (……なんで、叶ちゃんにはわかるんだろ。……家族とかは、誰も俺の事なんて気が付かないのに……)  温かくて、哀しい。  どうして、俺じゃないんだろ。でもすっかり、俺は秋夜の事も大切だった。俺の好きな人が俺の好きな人を好き………。 (………ああ、もう、ほら、……応援するしかないじゃん………)  ちょっと望み薄かもしれないけど。叶ちゃんが振られた時は傍で慰めてやろう。  ーーーと、そんな気長なことを考えている間に、二人の仲は急に縮まることになる。  秋夜が校内で倒れたらしい。  叶ちゃんから連絡があった。栄養不足と脱水症状だとか。なんでも、金無くて飯食べて無かったらしい。……やりかねない。アホだ。無頓着過ぎる。……頼れよ。気が付いてやれなかった…。たまたま居合わせた叶ちゃんが病院に付き添ったらしい。  それから程なくして、「もうおはようコールいいから」と、あんなに朝が弱かった秋夜が告げる。目が白黒した。言いたいことが沢山あったはずなのに、飲み込んだ。俺の中の察しのいい俺が「これは何かあるね。あの二人」と告げる。…ああ、くらくらする。ほんと、何もかも急だよ。付いていけない。俺は結局きっと、モノガタリの主人公にはなれないのだ。  いつだって、俺の知らないところで、世界は回る。
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