62人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
月曜日。
一コマ目だと言うのに、相変わらず俺より早く講義室に居た秋夜は、俺を見るなりラッピングされた紙袋を渡してきた。今日は別に、誕生日ではない。
「………何、これ?」
「おはようコール、ありがとう」
「………今?」
「そう言えば、改めてお礼を言ってなかったなって思って」
おはようコールを止めてからもう一ヶ月は経っていた。聞けば、金曜日に俺が何と無く不機嫌に思えて、思い立ったらしい。
(…………そんなの。お前が、彼女がいるって言ったからだったんだけど………)
頭をガシガシと掻いてから、受け取った。小さな袋だ。軽い。何が入っているのか、まるで想像がつかない。『感謝!』とプリントされたシールが貼ってあって、ちょっと笑ってしまう。「プレゼント用にお願いします」「ラッピングのシールは、この『感謝!』のやつで…」なんて、レジで言う秋夜を想像した。
「………開けてい?」
「うん」
何故かドキドキとした。ここに大成や翔が居なくて良かったなと思う。絶対あいつら冷やかしてきたから。
中から出てきたのはキーホルダーだった。四ツ葉のクローバーが押し花のようにアクリルに閉じ込められていて、傍にクマのイラストが描かれていた。マイクを持って、カラオケしている。
…想像した。俺の為にプレゼントを買いに出掛けてくれて、四ツ葉のクローバーのキーホルダーをいいじゃんと思ってくれて、更には、俺がカラオケ店でバイトしてるからって、デザインはクマがマイク持ってるやつにしてくれたんだ…。
(………は? 何、俺、幸せじゃん……)
大学生男子が、大学生男子に贈るプレゼントとは思えないチョイスだったけど、そんなところがこの天然美人らしかった。
「ありがと」
「ん」
こくりと頷く秋夜は、やっぱり堪らなく可愛い。まだ人が疎らな講義室で、異常な存在感を放つ。窓から差し込む七月の光よりも眩しい。
ま、いっか。
こんなことで、俺は金土日と燻っていた心を簡単に嚥下してしまった。
俺の好きな人が、俺の好きな人の事を好き。…最高じゃん。更には、彼らは両想いかもしれない。それならどうあったって、どちらも幸せになる未来に辿り着くわけで。それを祝福してあげれない友人なんているだろうか? 好きなら、尚更。
別に、俺が俺の手で幸せにしたいと思う必要なんて無いのだ。幸せなんてものは、誰かにして貰うものでも無いわけで。
「…………俺、めっちゃ幸せ者だわ」
ぎゅっとそのキーホルダーを胸に抱いた。そんな様子に、「大袈裟だよ」と笑う秋夜の笑顔は、確かに俺だけのものだった。
(………いいんだ。もう。今度こそ、しっかり応援してやろう…)
清々しく、そう思った。
思って、いたのに…。
何がどう、拗れたのか。この日を境に、叶ちゃんが俺らの輪に加わってくる事は無かった。
最初のコメントを投稿しよう!