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「どうした!」
ふすまが開き、明かりがついた。実希は、とっさにつむっていた目を開けた。
蛍光灯に照らされた部屋の中には何もいない。
実希の両親が部屋に入って来た。
「どうしたの? 何があったの?」
「ひ、ひとだま! ひとだまが出たの!」
リカのうったえに、両親は顔を見合わせた。
「ひとだま?」
「そうだよ、火の球みたいなのがあの辺を飛んでたんだから! 絶対ひとだまだった! それが、こっちに飛んできたの! ねえ実希ちゃん、そうだよねえ?」
一同の視線が実希に集まる。うなずきかけて、実希はリカの顔を見た。
目はこぼれ落ちそうなほど大きく見開かれ、口は半開き。寝る前にとかした髪が、こっけいなほど逆立っていた。
実希は、まだ握っていたリカの手をそっとほどいた。
「実希、実希も見たの?」
「うーん」
母に問われ、実希は首をかしげた。
「一瞬光が見えたのはほんとだよ。でも……車のライトかもしれない」
「ああ、窓越しに照らされたのか」
うなずく父の横で、リカはあんぐりと口を開けた。
「違うよ、ひとだまでしょ? ひとだまが飛んで来たでしょ、実希ちゃん! なんでそんな嘘つくの!」
実希は困り顔を浮かべ、両親を見た。父は苦笑し、母はリカのそばに屈みこむ。
「リカちゃん、寝ぼけちゃったのかな?」
「違う違う! ほんとにひとだまだったんだから!」
リカは叫び続け、先に寝ていた実希の祖父母まで起こしてしまった。母はリカの両親に連絡し、慌てて駆けつけたリカの母親は「こんな夜中に申しわけない」と言って、興奮がおさまらない娘を連れ帰ることにした。
「あんなに取り乱すなんて、よっぽど怖かったのね」
リカたちを見送りながら、母が言う。
「あんたもびっくりしたでしょ。あんな大声で」
「うん。まあ、大丈夫だよ」
「それなら良いけど。ねえ、もしかして……」
「ん、何?」
「リカちゃん、おうちに帰りたくて、あんなこと言ったのかな。だって、ひとだまだなんて……ふふ」
「うーん、どうかな? でもリカちゃん、うちはあんまり合わなかったのかもね」
実希は大きなあくびをした。
「さあ、明日は海に行くんだし、もう寝ようか。実希はあの部屋で平気?」
「全然平気」
あれが何で、何のために現れたのかは、結局わからなかった。だがその晩、実希はぐっすり眠った。
その後、リカとは会っていない。
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